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いつもなら解けるはずの寮の入り口での問題もいつまで経っても解けず、憤慨していたところにルームメイトのサリーがやってきて、問題に答えてくれた。心配してくれているようだけれど、何をどうやって説明すれば良いのかわからないまま、夜になってしまった。大広間などへ行きたくなかった。あいつと同じ空間になどいたくなかった。ひとりぼっちで部屋にいると、サリーはわたしにサンドイッチを持って来てくれた。涙が止まらなくなり、サンドイッチを食べられずにいると、サリーはわたしを抱き締めてくれた。泣きたい時は泣けばいい、とさえ言ってくれた。思えば、泣いたのはずいぶん久しぶりのことだった。支離滅裂になりながらも、わたしはサリーにあいつのことを話した。話さずにはいられなかった。サリーはすこし黙り、ひとつの答えを出した。

わたしが、あいつをすきなのではないかと。
わたしがあいつに言われて傷付いたのは、きっとあいつにだけは言われたくなかったからであろう。
あいつを見返したかったのではなく、あいつに見て欲しかったのだろう。

わたしは瞬きをした。サリーは呆れたように溜め息を吐いた。わたしには意味が分からなかった。サンドイッチを落としそうにもなった。サリーは慌ててわたしの手にサンドイッチを押し付けてくれたので、わたしはそれを食べた。わたしにはそれしかできなかった。わたしも人をすきになるのだとサリーは感動していたが、わたしは自分があいつをすきになっているのだと納得ができなかった。わたしには、あいつをすきになる理由がないからだ。あいつがこれまでわたしにしてきた仕打ちを詳らかに説明したけれど、愚かなわたしには理解できなかった。たとえすきだったからああいうことをしたのだと言われても、到底理解など出来なかった。サリーは、あいつもこどもなのだと笑った。いわく、男の人は気になる子を苛めてしまうものだと。いわく、わたしは素直になれていないだけだと。ただのルームメイトだったはずなのに、どうしてわたしに親身になってくれるのかが分からず、サリーに問うと憤慨された。ただのルームメイトではなく、友人だと胸を張っているサリーを見て、わたしはまた涙が零れた。わたしにも友人がいたのだ。その日はサリーの助言に従って、寝ることにした。




次の日、再びレギュラスがやってきた。レギュラスの顔を、一挙一動を見るだけであいつのことが思い出されるのだから堪らなかった。いつもであればゆっくりとたっぷりと話すのに、言葉少ななわたしを見て、レギュラスは理由を尋ねた。わたしが答えられず黙り込んでいると、レギュラスはあいつの名前を出した。今度は別の意味で何も口に出せなくなったわたしに、珍しくレギュラスは笑い、言った。あいつがわたしをすきだというのは本当だと。わたしはまた瞬きするだけだった。レギュラスはあいつの気持ちに気付いていて、わたしに話しかけることでからかっていたのだと。それならばわたしがレギュラスと話すのを楽しんでいたのが馬鹿みたいだったと拗ねれば宥められた。どっちが年上なのかがわからなかった。わたしの頭を撫でてくれるレギュラスの手は大きくてあたたかかったけれど、急に消えた。


何してるんだよ。


息を切らせたあいつがレギュラスの腕を掴んでいた。レギュラスはまるで汚いものでも見るかのようにあいつを睨み、あいつに掴まれている手とは逆の手でわたしの頭をもう一度撫で、去って行った。あいつは今度はわたしを見て呟いた。


何であいつと一緒にいるんだよ。

君は、あいつのことがすきなのか?


意味が分からなかった。レギュラスのことはすきだったけれど、きっとあいつが意味したすきとは違ったのだ。ゆっくりと首を振るとあからさまにホッとした顔を見せたあいつに唖然とした。わたしが知っているあいつの顔には、こんな表情などなかったのだ。わたしが知っていたのは、わたしを見下した表情と、わたしに対して怒りをむけた表情と、わたし以外の人と一緒にいる時の楽しそうな表情だった。呆然としているわたしの頭を撫でる仕草も感触も、レギュラスとは違っていた。


勝手だけど、耐えられなかったんだよ、俺は君にあまり触れたことがないから。

君って、まぶしいな。

こんなに近くにいるからなのかもしれないけど、遠くにいたってそうだ。

なのに気になって仕方がない。

触れたくて仕方がない。


あいつはわたしの頬に触れた。硬い指先だった。心臓が口から飛び出すのではと思ったほどだった。あいつの言う通り、あいつは勝手にも程があった。だが、わたしもあいつを見返してやると思うだけで、自分を惨めだと思うだけで何も変えてこなかったのは事実だった。だから、わたしは最初からやり直したかった。わたしがあいつを見返すのではなく、お互いにちゃんと見つめ合いたかった。


君がそう言うなら。


その言葉を聞き、初めてあいつを、シリウス・ブラックを、ちゃんと見ることができたような気がした。