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恥ずかしいほどに泣き喚いたわたしを、何故かその後も何度もブラック家に連れて行った母を恨みこそすれ、感謝したことなど一度もなかった。ただし、ブラック家には我が家にはない本も数多くあったので、ブラック家に行くたび、書斎に向かって本を貪り読んだ。数冊読み終えるごとに、ぱきぱきと骨を鳴らすように伸びをすると、いつもお茶を持って来てくれるのはあいつの弟のレギュラスだった。個人的統計として、2人兄弟のどっちが優しいかと問われれば、弟の方だと推測する。それはこのブラック家の兄弟にも当て嵌まることだった。書斎でお気に入りの本はなにかだとか、最近読んだ本は何かだとか、小さな声で話すことはとても興味深かった。わたしにはきょうだいというものがないから、そういったように自分の気持ちだとかを共有する機会をほぼ持てなかったと言っても過言ではなかったからだ。

そして、わたしにつまらないと言い放ったあいつは、いつもいくつか離れた棚のところに居た。話しかけてくることはなかった。またいる、またいる、と何度思ったことだろう。最初こそ苛ついたものの、本を読むにつれて集中力は増していくし、数冊読めば休憩と評してレギュラスがやってきて話すことが習慣になっていたし、あいつを気にならなくなっていたし、存在することすら忘れていた。

そしてある日のことだった。レギュラスと何度も話をしてきた後だった。その前にブラック家に訪れたときにそれよりも小さなころに読んでいたお気に入りの本を持ってくると約束をしていたときのことだった。いつもの通り、数冊本を読み終わってからレギュラスと話し、同時にそのお気に入りの本を出したところ、全く同じ本だったため、わたしが思わず歓声を上げたときのことだった。レギュラスだって驚いていた。すこし嬉しそうにすらしていた。なのに、


君って、やかましいな。


あいつは今度は呆れ顔どころの話ではなかった。怒りさえ露わにしていた。そして、レギュラスへ一瞥すらくれず、まっすぐとわたしを見てきたのだった。必死に涙を堪えて、わたしは謝ることもせず、走って逃げた。わたしは悪くなかったらずだ。確かにあの時ほど声を大きくしたことなどなかったけれど、それまでもわたしはレギュラスと話していたのだ。文句を言う機会などいくらでもあったはずだった。それに、あいつがわざわざあそこで本を読む必要などなかったはずだった。

そのときから、わたしは書斎にすら、ブラック家の長男に近付くことすらなくなったのだ。