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席替えをした。窓際の席になった。巣山と席が近くなった。別に約束をしているわけではないけど、当たり前のように昼飯は一緒に食べる。話す内容は専ら野球か部活か野球か部活か、時々家族だったり学校だったりする。時々他の奴らが加わることもあるけど、大抵は2人で食べる。移動する手間が省けるようになったのがいい。もう6月に差し掛かろうとしているから蒸し暑くなってきた教室を少しでも涼しくしようと窓を開けたままにしている。風が吹いてきた、オレにとってはさわやかだ。今日もうまそうな弁当を食べている巣山にとってもそうだろう。もう焼け始めた腕は半袖を着ているせいで丸見えだ。


「寒くない?」

「そう?」

「風、吹いてるんだもん。閉めてきていいかな?」

「いいんじゃない?」


名字さんの声がした。ぺたぺたと上履きを鳴らしてこっちに来るのがわかる。オレたちは半袖なのに、名字さんは長袖のカーディガンを着ているし、髪の毛は下ろしている。


「ごめん、閉めてもいい?」

「いっすよ」


オレより先に巣山が返事をした。巣山を見るけど、変わった様子はなかった。……何でオレ、巣山のこと見たんだろう?名字さんが手を伸ばすより先に窓を閉めようと、手がぶつかった。柔らかくて白くて小さくて細くて綺麗で冷たい。ピンクのシュシュがなおさらそのことを強調させているみたいだ。心臓が上に跳ねたような気がした。


「し、閉めるよ」

「ありがとう、栄口くん」


にこっと笑った唇は潤っていて、自分のはどうなっているのか思わず触って確かめた。かさついていた。きっとリップクリームとかを塗っているんだろう、オレと違って。どんな風に塗ってるんだろう。首筋から顔に向かってどんどん熱くなっていく。窓を閉めたからじゃない。


「さむ、がり?」

「え?」

「や、その、オレは全然寒いとか感じなかったから、でも名字さんはカーディガンまで着てるし」

「そうなの、寒がりなんだ。何か閉めさせちゃったみたいでごめんね」

「全然、オレ暑かったわけじゃないし」

「なら、よかった」


またにこっとオレに笑って、またぺたぺたと上履きを鳴らして自分の席に戻っていった。呆けたように椅子に座りこむ。何だったんだろう、何だったんだろう。まだオレの顔は熱くて、いくら名字さんに頼まれたからとはいえ、今こそ窓を開けたい気分だ。オレにとっては寒くないのに、名字さんにとっては寒い。あの手からも、納得できる。弁当なんか今は目に入らなくて、じっと名字さんを見つめてしまう。あの手が動いたかと思うと、髪の毛を横に流した。黒い髪と、隠れていた白いうなじが目に焼き付いたみたいだ。瞬きしても消えない。どっどっとこれ以上にないくらい心臓が激しく動く。オレには不可能なほど器用にあの手であのピンクのシュシュを使いながら手早く髪を結ぶ仕草と、高いけど嫌じゃなくて、むしろ、す、好きだと思う声で友達と話しながら、オレには考えられないほど小さな弁当を食べている。何なんだ、何なんだ、名字さんは一体オレに何をしたんだ。笑い声がした。


「な、んだよ」


巣山を見る。オレと向き合ったことでさらに笑いが止まらなくなったらしい。オレの弁当は全く減っていないのに、巣山はもう食べ終わっていたし、手作りのおにぎりすら取り出していた。でかい水筒から一口飲んでも、巣山の笑いは収まらない。


「いや、青春だな、と思っただけだ」

「な、何言ってんの」


今度は本格的に笑い出した。いつもの巣山らしくないくらいだ。意味が分からないし、からかわれているような気しかしない。時計を見ると昼休みはもうあまり残ってなかった。慌てて弁当を食べ始める。ちらっとまた名字さんを見る。まだ食べ終わっていなかった。ずいぶんゆっくり食べるみたいだ。……どれもこれも、なんでこんなに、オレと違うんだろう。また、どくっと心臓が痛くなる。なのに、目が、離せないんだけど。




かよこさま、リクエストありがとうございました!
「些細なことでああ女の子なんだなあって意識してどぎまぎする栄口くん」