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魔法史での眠さが境地に達して、ふらふらしながら変身術に行くことが出来たのはいいものの、マクゴナガル先生に会っても授業を受けても眠さは吹き飛ばずに居眠りをしてしまった。有り得ない、有り得ない、有り得ない。友達は巻き込まれたくないからって起こしてくれなかったし、私が罰則になったって自業自得だって何にもしてくれない。それは、うん、自業自得なんだけど、それにしたって何かしてくれたっていいのに。マクゴナガル先生に言われたのは3階の廊下をすべてマグル方式で掃除することだった。はぁ、と大きな溜め息をつくと大きく響いた。もう10時だから人なんかいない。シンと静まり返った廊下をひたすら履いていく。やっと半分が終わった。あとは雑巾がけをするだけ。するだけ、っていうほど簡単な仕事じゃないけど。もう一度大きな溜め息をつく。溜め息量産機みたいになってしまった。ナメクジが出てくる呪文があるなら、きっと溜め息ばかり出てくる呪文もありそうだ。ナメクジよりずっとマシだけど。……鼻歌でも歌えば、気分も上がるのかな。適当な節をつけてふんふん歌ってみる。相変わらず気分は上がらないし、空しさが増すだけだ。友達が1人でもいてくれたら、こんなにむなしさを感じることはなかっただろう。仮定の話をしたってどうしようもないけど。しつこく鼻歌をやめずに雑巾をかけていると、ばたばたと激しい足音がした。もう生徒が出歩いていい時間ではないのに。もしかして、先生が走っているのかもしれない。でも、先生がこんなに激しく走っていたら、何か問題が起きてしまったときだろう。もし、本当にそうならどうしたらいいのだろう、罰則はなくなるだろうか。たぶんマクゴナガル先生なら後日また改めて日にちを設けましょう、とか言ってきそうだ。何にせよ、私が罰則をしなければならないのは変わらない。あきらめて、いかにも真面目に罰則をしていますという風に雑巾がけを再開すると、バケツの水がもう汚くなっていることに気付いた。……マグル式って、どこまでマグル式でやればいいのかな。この水を取り換えることくらいなら、魔法でやってもいいのだろうか。ローブにさしてある杖に手を伸ばす。これくらいなら、気付くはずもない、はず、とは言い切れない、だってマクゴナガル先生だから。はぁ、ともう数えきれないくらいついた溜め息をもう一度ついて、重いバケツを持ち上げる。ここからトイレまでどれくらいかかるだろうか。……それより、足音が近付いてきている気がするんだけど。


「どけよ!!」


怒鳴り声に心臓が止まるかと思った、バッと振り返るともうすぐそこまで誰かが来ていて、避けようと思ったけれどそこまで運動神経は良くない私は思いっきりその人にぶつかられ、バケツをしたたかに膝に打ち付け、大きな音をたててバケツを床にぶちまけた。う、うそ……。さっきまでの私の苦労は何だったのだろう。腕がじんじんと痛む。どうして、どうして、どうして。


「最低!何してるのよ!」

「声が大きい!少しは静かにしろよ!!」

「信じられない、どれだけ一生懸命掃除したと思ってるの!?私の時間を返して!!」

「だから黙れって言っているだろ!!……っち、今ので気付かれたか」


……あれ?ブラック?何でこんなところにいるの?“気付かれたか”ってどういうこと?さっきから聞こえていた足音はこの人のものだったっていうこと?ブラックは手早く杖を取り出して廊下に広がっていた水をきれいにした後、私の手を引っ張った。


「ちょっと!どこに行くの!?」

「少しぐらい静かにしろって!」


ぎゅうぎゅうに物がたくさんある物置に押しこめられる。何?何なの?しかもブラックまで入ってきたし。く、苦しい。どうしてこんなことになっているの?どうして私まで巻き込まれているの?ただでさえ空気が薄いのに、口を塞がれているからさらに苦しい。ぱしぱし腕を叩くとやっと離してくれる。


「離すから黙ってろよ」

「何なの?何でこんなことしているの?」

「逃げているんだよ」

「誰から?」

「管理人だよ」

「何で管理人になんか追いかけられているの?」

「質問ばかりだな、こんな時間に出歩いていたら誰だって注意されるだろ」

「そ、それは、そうだけど」

「じゃあ君は何していたんだよ、名字」

「わ、私は、罰則で……」

「ああ、そういえばマクゴナガルの授業で寝ていたな。僕より君の方がかっこ悪いじゃないか」


小さな声で話しているとさらに距離が近く感じる。そして、声の振動が伝わってくる。これまでそんなに親しくなかったし、話したことがないわけではないけど、大して話したこともない。どう、しよう、いきなり恥ずかしくなってきた。心臓がどくどくと鳴り響く。こんなに近くで接したことなんてないのだから。顔が熱い。私よりも大きな身体に、頭上から落ちてくるようにすら感じる声に、さっきまで私の口を覆っていた大きな手に、出来る限り早く離れたい。もう、息が詰まる。


「行ったか?」

「…………」

「……どうした?」

「………………え?」

「いきなり黙るから」

「ご、ごめんなさい」

「いや、謝る必要はないけど」

「…………」

「珍しいな、名字がおとなしいなんて」

「なによ、それ」


くすくすと笑われる。さらに振動が伝わってくる。距離が、これ以上にないくらい近い。ああ、もう、だめだ。早く離れたい、これ以上どきどきしたくない。息を吸うたびにブラックの香りを感じて、密着しているところから熱が伝わって、もうどっちの体温なのかもわからなくなる。頭にかかるブラックの息に、ぎゅっと目を閉じた。もう見つかってもいい、だから、早く、離れて。


「よし、出るか」

「あ、……」


離れて、と思っていたのに実際離れてしまうとさみしい。苦しい、と思っていたのに実際に外に出てくると空気が多すぎる気がする。ああ、もしかして、


「ほら、帰るぞ」


どうやら、シリウス・ブラックに、恋を、してしまったみたいだ。




かのさま、リクエストありがとうございました!
「シリウスとのきゅんきゅんする話」