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今よりもっと小さかったころ、家を出た瞬間に何かが劇的に変わるものだと思っていた。でも決してそうではない。さらに言えば、成人すれば、ホグワーツを卒業すれば、一瞬で何かが変わるかと思っていた。でもやっぱりそうではないのだ。彼女から見たら俺は子供でしかなく、彼女よりは魔法はうまくても、結果子供扱いされてしまう。もうブラック家の一員でも、子供でも、ホグワーツの生徒でもないのに。


「もっと責任感を持ったらどう?」


肩書き的には同じだ。騎士団の一員、ホグワーツの卒業生。ただ相手は女で、年上で、そして少し弱い。そんな言葉を投げかけられるたび、何故だか苦しくなる。強がっているようにすら感じる。感じるだけで事実かどうかなんてわからないし、実際彼女が、たとえば落ち込んでいたり泣いていたりするところなんて見たことがないからだ。そして、今、俺は、


「人の話、聞いてるの?」

「…………」

「あのね、そういう態度だと困るの。今日はあなたと組んでたわけでもないけど、あなたのその軽率な行動が何か引き起こしたらどうするの?取り返しがつかないことになりかねない」


怒られている。まるで生徒だった時みたいに。おかしい、何がおかしいって、もう怒られる必要はないはずだ。新団員は最初に研修といったような形で先輩と組まされるが、俺たちは有難いことに優秀だった。ピーターなんかよりも早く終わらせることが出来たから、早速ジェームズと組んで任務をこなしている。だから全責任は自分にあるし、そんなへまを起こすようなことはしていないはずだ。今日もいつもと同じようにジェームズと組んだ。任務は無事終了したが、任務後、運が悪かった。少し悪ふざけをして、マグルのバイクを改造したものを乗り回し、丁度空に飛び立った瞬間、彼女に、名前に見られた。あんぐりと口を開け、周りをさっと見渡すのが見えた。そして更に運の悪いことに、マグルがいた。名前よりも大きく目も口も開けているのが見えた。不味い、と思った瞬間、名前がそのマグルに声をかけ、ちょっとばかしの忘却術を掛けたらしい。ふらふらと歩いていくマグルを目線でおい、そのまま俺たちを見て、下りてくるように手招きをした。嫌な予感しかしなかった。以上、理由を述べた。


「どうして空を飛ぶ必要があるの?」

「任務が終わった後だ、自由に過ごしていいだろ」

「だからってロンドンで?街中で?どこか田舎町でも行ってくればいいのに」

「わかっていないな、そのスリルがいいんだろ」

「…………スリルを追い求めていられるうちはまだまだ新人だわ」


ふぅっと大きく息を吐いた名前はさっきまで俺を怒っていた熱が嘘のように俺から目をそらした。……そういう仕草が、年の差をさらに感じさせる。いつまで経っても年の差は縮まらないし、自分が大人になったとは思えないままだ。


「君と俺で、一体何が違うんだよ」

「どういうこと?」

「俺に、そんなことを言える立場の人間なのかよ、君は」

「だから、一体何が言いたいの?」

「……俺を、子供扱いするな」


視線をそらす。ほんの少しの間があいて、くすくすと笑い声がし始めた。いかにも子供らしいことを言ってしまったことくらい、わかっている。だから自分から視線を逸らした。何でこう、子供扱いされるようなことしか言えないんだ。こんな態度で、どうして注意されずにいられるだろう。


「どうしてそんなことを言うわけ?」

「…………」

「答えなさい、子供扱いされたくないなら」

「……俺が、まるで何もできないように注意するからだ」

「そんなこと、ちっとも思ってない。悔しいけど、私はあなたより魔法が得意なわけでも手早く任務を遂行できるわけでもない。騎士団員としては貴方に劣る」

「……え?」

「だから、私はあなたの粗探しをしている節もあるっていうこと。……いや、今日やっていたことはおかしい。絶対におかしいけれど」

「…………」

「私は毎日自己嫌悪しているの。情けないと思っているの。自分が何ひとつ成長できていないみたいで辛いの、あなたを見ていると。……ああ、こういうことを言うのも思うのも子供みたいで嫌になる」


思わず名前を見る。開心術を使わなくても、名前が言っていることは本当だとわかる、……おそらく、大女優でもない限り嘘はついていないと思う、と信じたい。名前は顔を歪めていた。こんな表情は初めて見た。笑うときだって穏やかで、怒るときだってそんなに声を荒げることもなかった。なのに、俺にこんな表情を見せるなんて。一歩近寄ると後ろへと下がる。空いている距離は変わらない。年齢や過ごしてきた時間のように、いつまで経っても変わらない距離があるとしても、


「な、何」

「何でも?」

「わ、笑っているじゃない」

「そうか?」

「や、や、やめなさいよ、その表情」

「どういう表情だ?」

「笑顔よ……からかっているの?」

「いや、だが嬉しい」

「何が!どうせ馬鹿にしているんでしょう?いつもいつも怒られている腹いせでもしようっていうわけ?」

「子供みたいに喚くのはやめろよ、名前」

「なっ……!」

「そんなに俺に負けたくないなら、俺が色々教えてやる」

「だ、誰がそんなこと頼むっていうのよ!」

「わからないか、君を誘っているんだけど」

「……え?」

「子供同士、少しでも大人な関係になろうぜ?」


カーッと顔を赤らめていく名前に飛び切りの笑みを向ける。さっきバイクから見たあんぐり口を開けた顔と似通っているけれど、決して同じではない、はずだ。少しでも期待があればいい、俺と同じように。少しでも願望があればいい、俺と同じように。とりあえず、大きく一歩を踏み出して、この距離を縮めるところから始めることにする。




持田望子さま、リクエストありがとうございました!
「騎士団員の女性とシリウスの話」