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昨日、散々泣き暮らしたあとはアリスに怒られてしまった。泣くくらいなら話せ、だって。でも、一体どこから話せばいいのかわからなくて黙ってしまった。すると溜め息をつかれて、もういいわ、だって。溜め息をつかれても、アリスは綺麗だから見惚れてしまう。そしてまたアリスに溜め息をつかれた。そんなに呆れるようなことをしたつもりはないのだけれど。お詫びに代わりに図書室へ行ってくることにした。アリスは本を読むのが好きで、どんどん本を借りては借りすぎたって嘆いているから。別にいい、と言われたけれど、何だかひとりで考えたい気分だった。

休日の夕方のホグワーツは廊下にも図書室にも人はそんなにいない。だから、ふぅと一息つくと案外大きな音になってしまって口を噤む。少し腕も痺れてきたから、早くマダム・ピンスに渡してしまおう。そのままカウンターに行くと誰もいない。カウンターの上に本を置いて辺りを見渡すと、いた。誰がって、ブラックが。何でこんなところにいるの?図書館って、ブラックは確かに頭がいいけれど、本を読んでいる印象は薄い。Pはよく来ると言っていたけれど。お勧めの本を何冊か教えてくれたことがある。わたし自身はあまり本を読まないけれど、Pが教えてくれた本は読んだ。……もしかすれば、わたしが意識していなかっただけで、ブラックもPも、わたしと同じ時にいたのかもしれない。ブラックが顔を上げる。慌てて顔を逸らす。まだマダム・ピンスは来ていない。早く来てほしい。


「おい」


ブラックがわたしのそばにやってきた。“姿あらわし”でもしたみたいに。ギュッと目を瞑る。どうして話しかけてくるの?やっぱり怒ってたっていうこと?でも、よくよく考えてみると、噂になったのはわたしの責任じゃない。ブラックのことがすきなら、自分から噂を流すのかもしれないけれど、わたしはブラックのことではなくて、Pのことがすきだから。……思いを告げることすら、出来ていないけれど。そして、こんなところを見られてしまえば、また噂が流れてしまうかもしれない。また、Pに勘違いされてしまうかもしれない。


「返事をしろよ」

「……は、はい」

「な、何で泣いているんだよ!」

「うぅ……」

「お、落ち着けって!」

「何をしているんですか!」


泣きながら顔を上げると、マダム・ピンスが鬼の形相で仁王立ちしていた。ブラックは隣でゲッと言っている。わたしだって言いたいけど泣きじゃくりが止まらなくて言えない。震える手で持ってきた本を指差すと、マダム・ピンスはしかめっ面で返却手続きをして、頷いた。そのまま回れ右をして図書室から、ブラックから逃げ出した。すると後ろからバタバタと追いかけてくる音がする。何で?どうして?わたしが本当に何をしたっていうの?ガシッと腕を掴まれて、後ろにつんのめる。


「待てよ!」

「……ひ、ひぃ」

「……怯えるなよ」

「……ご、ごめんなさ、い」

「……………噂が、たってるだろ」

「ご、ごめんなさい……」

「謝るな、君は悪くない。……噂を流したのは、ジェームズだ」


ブラックの言葉に力が抜けた。ジェームズ、って、ジェームズ・ポッター?わたしでも知っている、ブラックと同じ寮で、ものすごく仲が良くて、いつも一緒にいる、あのジェームズ・ポッター?恐る恐る振り返ると、ブラックは一昨日温室の近くで見たときみたいに困ったような顔をしていた。どうして、ポッターがそんな噂を流すようなことをしたの?


「……わけがわからない、って顔をしてるな」

「だ、だって、わけがわからないもの……あなたにとっては何のメリットもないでしょう?」

「………あるんだよ」

「……え?」

「Pは、俺だから」


ブラックが何を言っているのかが分からなかった。どうしてPのことを知っているの?Pの名前を知っている人は、P本人でなければわたし以外にはいないはずだ。私の腕を掴むブラックの手は震えているし、瞳だって嘘を吐いているようには見えない。……でも、信じられない。ブラックがPだなんて。腕を揺らすと簡単に腕を外すことが出来た。


「ご、ごめんなさい、わたし、……」


ブラックをそのままにして寮に戻る。今度は追いかけてはこなかった。どうしたらいいの、わたし。気付けば部屋に戻っていて、アリスが心配そうに私を見ていた。さっきブラックに言われたことがぐるぐると頭のなかを巡る。ブラックがPだった、Pがブラックだった。瓢箪から駒だ、何でこんなことが起こるの?何でわたしをこんなに悩ませるの?神様のバカ。