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昨日、ブラックのあの表情を見てから事あるごとに思い出していた。何で、あんな表情をしたのかが全くわからない。おかげで薬草学の時間は花咲か豆を何度も床にばら撒いてしまって、わたしの足下は花畑になっていた。当然スプラウト先生には減点されてしまうし、笑われてしまうし。……明らかにその中には嘲笑も混じっていた。落ち込まなかったわけじゃないけれど、恥ずかしかったけれど、それでもブラックの表情が頭から離れない。授業中だって何だか気になってしまって見てしまった。ブラックはわたしに対して怒っていると思っていたのに。もしかして怒っていないの?そして、灰色のふくろうは来なかった。今日は授業がないからのんびりとベッドの上で寝転がっていられる。アリスは図書室に行っているから部屋にひとりぼっちだけれど、Pからの手紙を読み返しているから寂しくない。……一体誰なんだろう、と気にならないわけがない。最初はただのお礼のつもりだった。魔法薬の教科書を買うのを忘れてしまって、スラグホーン先生に借りたのが始まり。わたしは教科書に後でレポートに使おうと思っていた羊皮紙のメモを挟んだままにしてしまった。数日後、レポートを書こうとしたときに気付いて慌てて戻ると、羊皮紙の間違いが訂正されていた。誰がやってくれたのかはわからなくても、助かったことには変わりがなかった。だからありがとう、と手紙を書いた。アリスはわざわざ手紙を書かなくたって、とか、わざわざ誤りを訂正してくるなんて嫌味ったらしい、とか言っていたけれど、わたしはそうは思わなかった。優しい人だと思った。驚いたことに、魔法薬の時間に同じ教科書をもう一度開いてみると返事があった。そのときからずっと文通が続いている。途中から、教科書ではなくてあの灰色のふくろうが教室にいて、ふくろうでするようになったけれど。わたしは途切れてしまうのではないかとも思った。それでも続いているのだから、Pはとても優しい人なんだろう。それかわたしのことが気に入っているか、……きっとそれは無いと思うけれど。Pと話すことは色々だ。今週何があったのかだとか、お気に入りのお菓子だとか。些細なことだったりするけれど、どれも大切な記憶だ。その中でPが自分自身の、基本的な事柄についてはほとんど触れていない。だから、わたしがPについて知っているのは、多分男の子だということと、同い年だということ、誕生日だけ。向こうもわたしのことについては何も知らない。お互いの名前も、寮も知らない。Pとの関係を続けるためにはそれが一番ベストの方法だった。それとなくどこの寮なのか尋ねたことがないわけじゃない。でも、「どこの寮なのか、知ることがそんなに重要か?お互いに秘密であることが面白いと思わないか?」と言われてしまえば、黙るしかなかった。そして、確かに重要ではなかった。ただ文通をしているだけなのに、Pについて何にも知らないのに、わたしはどんどんPに惹かれた。わたしの誕生日にはプレゼントを贈ってくれた。初めてもらったときには信じられなくて、Pに確認してしまった。そのときから、わたしの宝物にPからの誕生日プレゼントが加わった。……壊されてしまったけれど。そして、まだPには言えていないけれど。返事だって、まだ届かないけれど。


「うぅ……」

「また泣いているの?」


アリスの声が聞こえ慌てて広げていた手紙を隠す。み、見られたかな?アリスがじっとわたしを見ている。手紙は隠しきれていない。何でここまで広げたんだろう、一通一通読んでは閉まっていけばよかったのに。離れたところに置いてあった手紙から畳んでいく。ぐしぐしと袖で目元を拭う。涙をそのままにしていたら手紙が濡れてしまうもの。


「悪かったわね」

「ちが、ちがうの、隠していたわけじゃなくて……」

「いいわよ、別に」


アリスの言葉に更に涙が出てくる。アリスが見ないようにしながら手紙を畳んで渡してくれる。わたしは泣いたままで、アリスに全部やらせてしまった。アリスは手紙を受け取らないわたしの頭を撫でてくれるけれど、わたしはいつまでたっても泣きやむことができない。


「わかってたわよ、私に隠していることがあるくらい。それが手紙だってことも」

「……え?」

「誰からもらっているのかは知らないけれど。夜に泣きながら読むのはやめた方がいいわね」

「……き、気付いていたの?」

「当たり前じゃない、私を誰だと思っているの?……ま、話せないなら話さなくたっていいわ。話したくなったら話しなさい」


アリスは優しい、だからこそわたしは苦しい。わたしは馬鹿だ。鹿を逐う者は山を見ずって本当だ。それでも、アリスの優しさに甘えてしまうわたしは、本物の馬鹿だ。何でこんなことになってしまったんだろう。そもそも噂がたたなければ、こんなことにならなかったのに。神様のバカ。