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昨日、朝食の時に大広間でみんなから冷ややかな目で見られて以来、授業でもわたしに話しかける人はいなかった。もちろん昼食の時も、夕食の時も。それだけ、わたしがブラックと恋人同士だっていう噂は広まっていたみたい。わたしだけが、気付かなかったみたい。


「あんたって本当に鈍いわよね」

「うぅ……」

「そのうえ泣き虫だし」

「ううぅ……」

「まぁ、そんな子があのシリウス・ブラックの恋人なわけがないってことくらい、みんなすぐに気付くわよ。安心したわ」

「……アリスも?」

「え?」

「アリスも、ブラックのこと、すきなの?」

「はぁ?そんなわけないでしょ。リスキーな恋はごめんだわ」


肩を竦めて首を振るアリスは相変わらず絵になる。本当に映画に出てくるみたい。それに、アリスの妙に現実的なコメントに納得する。確かにブラックに恋をするってリスキーだ。ただ噂が立ったってだけで、ものが壊されるんだもの。でも、よくわたしまで辿りつけたなぁ。わたしの名前ってハッフルパフの同級生以外にまで知られるほど有名じゃないと思ってたんだけれど、……もしかして有名だったとか?……全然嬉しくない。でも、アリスがブラックのことをすきじゃないって聞いて安心した。だって、アリスにまで嫌われたら、それこそ目が融けるほど泣き暮らす気がするもの。想像するだけで視界が潤む。アリスがやわらかいハンカチで荒くわたしの目を拭いてくれる。優しいんだか優しくないんだかわからない。


「本当にブラックとの関わりはないのね」

「ある方がおかしいよ」

「じゃあ何であんたの名前が出てくるのよ」

「出所がわからないからわたしにもわからないよ。……ブラックが自分で言うはずもないし」

「それはないわね。……でも、」

「なぁに?」

「あんたは一体何をなくしたっていうの?」


アリスの言葉に涙が止まる。アリスにも、誰にも話していなかった。わたしがなくして壊された宝物。ポケットの中に入ったままの宝物。アリスには答えずにうつむいて、ポケットに手を入れて触れる。指先に冷たい金属が当たる。これは、あの人とわたしだけの秘密だって、あの人と約束と約束したんだもの。


「まぁ、いいけど」


今度は優しくわたしの頭を撫でてくれたアリスに申し訳なさが極まる。言ってしまおうか。アリスに話すことで噂がなくなるのなら、……でも、あの人を裏切ってしまうことになる。それに、あの人がわたしにくれた宝物はもうすべて壊れてしまった。そしてもう直らない。どうやってあの人に話したらいいの?八方塞がりだ。また涙が溢れて必死に拭う。どうしてわたしがこんな目に合わなくちゃいけないの?神様のバカ。