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バイクの音は継続的に響いているけれど、動く気配がない。恐る恐る顔を上げると何やら棒切れのようなものを手に持った青年が立っている。その瞳に見覚えがあって目を細める。何故か胸が高まっていく。


「なんだ、マグルか」


マグルか、という声に目を見開く。マグル、という言葉に聞き覚えがあるからだ。あの人が何度か口にした言葉だ。そして、この声はどこかあの人のそれに似ている気がする。暗がりでよく顔が見えない。震える足で立ち上がろうとしても転んでしまう。


「立てないのか。見てたのか?」


責めるような声に、更に足が竦む。上げていた顔を俯かせるような声だ。ふぅ、と聞こえよがしなため息をつき、バイクから降りて近付いてくる足音は少し横柄だ。ぐっとわたしの腕をかなりの力で掴む。


「いいか、見たことは忘れろよ」


やっぱり、あの人だ。バッと顔を上げると、あの硝子玉のような瞳をしっかり認識することができる。大きく見開かれた瞳の中に、わたしがまだあの人の、この人の記憶の中に存在していたことを実感する。口を少し開けわたしを見つめることに、胸が張り裂けそうになる。


「な、んで……」


震えるような声はこの人が心底驚いていることをわたしにしっかりと伝えてくる。わたしも十分驚いているのだ。5年という月日は人をここまで変えてしまう。美少年から、精悍な男へと。わたしの腕を掴む手に、力が入っていく。少し顔をしかめてしまうと緩んでいく。憎まれ口を叩くようで優しいその心根は変わっていないらしく、更に喜びがこみあげる。


「………久しぶり」


自分の口から出たのは随分掠れた声だ。こくり、と頷いたその仕草は、あの夏までのそれと変わりなく、何だか笑えてきてしまう。