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あの人の何かが、それまでの夏とは確実に違っていた。けれどそれを直接尋ねられるほど、そのときにはもうわたしはそこまで子供ではなかった。何かを脱したように、それでも不安を抱いているように、けれど英断だと信じ込んでいるように見えた。その夏、わたしは努めて、それまでの夏と同じように振舞おうとした。それを求められていた気がしたからだ。それが正解だったのかどうかは今ではもうわからない。

「消えたいと思ったことって、あるか?」

あの人は何度もわたしに夢の中で問いかける。そして過去のわたしは、夢の中でいつも愚者のように、どうして?と問う。いつももどかしさを感じるのは、これが夢だとわかっているからだ。これがもうどうしようもない過去の出来事だとわかっているからだ。

そしてわたしは目を覚ます。ナイトテーブルには水差しがあり、この夢を見た日にはその朝のうちに空になる。気分が悪い。夏になると毎夜のように見るこの夢は、もう5年も前のことなのに、それでもわたしを許さないというように、わたしの前に現れる。そして、今なら答えられるのだ。あの人がわたしに問うた質問の答えは、わたしの中に厳然としてある。あの人と共に過ごした最後の夏だと。手を伸ばしても届かなかったあの瞬間だと。首の骨を音を立てて鳴らし、ベッドから這い出す。空になった水差しをシンクに持って行き適当に置く。そのまま顔を洗いに洗面所へ向かうと、鏡に映る老けたわたしが目に入る。あの夢の中とは大違いだ。もう、どれだけ時間が経ったのだろう、そう考えると、たった5年しか経っていないのだと少し呆気にとられる。なのに、わたしはまだ地に足が着いていないようで、おそらく最後の夏のあの人より精神年齢は低いはずだ。鏡の中のわたしが嘲笑する。ぐっと目を閉じ冷たい水で目を覚まそうとする。今日はもう、考えたくない。今日ももう、考えたくない。