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10年ほど前の話だ。あの人はわたしの家の近くにある公園に突然現れた。そしてわたしに話しかけてきた。今思えば、奇跡のような偶然だった。毎年夏休みになるとその公園にふらっとやってきた。確実に会えるとは限らなかった。別れ際に彼が告げるのは、またな、というありふれた不確実な口約束だった。それでも信じ、夏休みの間は毎日あの人に会いに行った。


「また来たのか、暇だな」


あの人はそんなわたしを見て笑い、くしゃりとわたしの頭を撫でた。それにふいっと顔を逸らしまた笑われるのもいつものことだった。素直になっていたらよかったのかもしれない。
だって、あなたに会いたかったから。
流行りの恋愛映画に出てくるヒロインのように可愛らしく言えたらよかった。

あの人はあの公園の近くに住んでいたらしい。らしい、というのは確証がないからだ。あの人は家が嫌いだったらしい。らしい、というのはあまり家のことを話さず、話すときにも苦虫を噛み潰したような表情をしていたからだ。その代わり、学校のことや友人のことは瞳をきらきらさせて話した。あの硝子玉のような硬質な光を放つ瞳が輝くのは美しかった。いつまでも見ていたかった。その内容がわたしではないことに嫉妬を抱いたりもしたけれど。今よりずっと幼かったわたしにはその感情の名前すらわからなかったけれど。そして、あの人が話す内容には理解しがたい言葉が散りばめられていた。明確には覚えてはいないけれど、たとえば“箒”。箒で何をした、と言っていたかは覚えていない。何かスポーツのようなものだった気がする。あの人の話す言葉はわたしを惹きつけ、離さなかった。あの人が学校に戻ると言う時は悲しみ、あの人が、またな、とわたしに告げたあとにこっそり泣いた。その悲しみは年々強くなっていった。それでも、また来年会えるという確証のない若さゆえの希望を抱いていた。愚かだった。

そして、あの人の16歳の夏が訪れた。