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花屋で働くことが思った以上に大変、と気付いたのは結構早かった。花は結構重いし、水で皸はするし、フラワーアレンジだって簡単じゃない。そもそも慣れてないから比較的初歩的なものしかやらせてくれないのだけれど。でも、やっぱり花は好きだし、自分が渡した花でお客さんが笑顔になってくれるのも、お客さんが渡した人が笑顔になってくれるのを想像するのも嬉しいから、辞める気には全くならない。

イベントの前になるとものすごく忙しいけれど、普段はそれなりの忙しさの花屋では、時々ふっと忙しくない時間ができる。そういう時は花の状態を見たり水を差し替えたりしているのだけれど、接客をしているわけじゃないから気が楽。花の状態を見終わったらぼんやりと店の外を眺めて行きかう人たちを見て過ごしている。小さな花屋で、地域密着型だからできることだと思う。お客さんも常連さんばかりだから、ちゃんと仕事をしろと睨んでくることもない。

そんな私の目に最近止まっているのはものすごくハンサムな男の人。黒い髪で灰色の瞳。クールな印象な人。毎日、通りを挟んで向かいの喫茶店に座っていて、長い巻紙に羽根ペンで何か書いている。今時羽根ペンを使っているなんて貴族か何かなのか、私にはよくわからないけれど、所作が優雅で洗礼されている。ただ紅茶を飲んでいるだけなのに、映画のワンシーンみたいに綺麗。

そして気になるのが、時々こっちを見てくること。目が合うと何もなかったかのようにあの長い巻紙に視線を戻す。私だって勝手に彼のことを見ているのだから、向こうが見てくることに文句は言えるわけもない。けれど、私なんかただ花屋で働いているだけの単なる一般人だし、見ていたって何の得もしないはず。しかもあんなにハンサムな人に見られる理由なんて皆目見当がつかない。何と無く、気恥ずかしい。でも、時々見てくるだけだから害なんてないし、私だってあんなにハンサムな人を見られるだけで得をした気分になるから。そもそも、話しかける理由なんてないのだから何も起こらない、きっとこのままの関係。関係なんてあるのかないのかもわからない。




んとなく気になるあの人