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ガラガラと足場が崩れていくような感じ、といえば俺のこの気持ちを表すことができるだろうか。

アジア人はホグワーツの中で目立つ。あまりにも少数だからだ。同じ寮で同じ学年とくれば完全に認識する。どういう人間か知らなくても、「ああ、あの」という程度までには覚えられる。それをなぜ「誰だっけ?」などと答えたのか。俺は馬鹿だった。惹かれていたのは俺の方だったのに。

彼女は一生懸命だった。言語というハンディを背負いつつも授業に直向きに取り組む姿は俺を惹きつけた。気付けば目で追っていた。俺は今まで自分が敷かれたレールの上をただ単に歩いてきただけだと気付かされた。だから、俺は彼女みたいに何か自分で誇れることをしたいと思った。家を出るきっかけを作ってくれたのは彼女だ。それでも彼女は自分に自信がないと言う。自分は大したことがない人間だと言う。自分は俺にふさわしくないと言う。俺と一緒にいられるのは夢みたいだと言う。そんなの嘘だ。彼女は強い。俺よりもずっとずっと強い。

だから彼女が俺に思いを告げてくれたのはまさに青天の霹靂で、天にも昇る喜びで、なにがなんだかわからなくなってしまって「誰だっけ?」発言だ。プロングスやムーニーには呆れられてしまったし、ワーミーは何だか俺に共感したような表情をしていた。かなりの屈辱だ、今考えてみれば。それでも彼女が俺を見ていてくれたこと、彼女が俺を受け入れてくれたことが嬉しくて仕方なくてどうでもよくなった。

それを手放したのは俺だ。


俺を突き放した笑顔。ブラックくん、と呼ぶ声。真冬の湖に飛び込んだってこんなに冷たいと感じることはないだろう。手を伸ばしてもエバンズに振り払われた。彼女は振り返りもしなかった。腕にまとわりつく、彼女とは全く異なる腕。忌々しくて仕方ない。


「離せ」

「どうして追いかけるんですか?関係ないんでしょう?」

「お前も関係ないだろう」

「……っ!関係あります!私は、シリウスさんのこと――」


彼女に呼ばれるのとこうも違うものだろうか。彼女がやわらかく、確認するように呼ぶ俺の名前は忌々しくもなくてむしろ心地よくて何度も読んでほしかったのに。強く腕を振り払って歩き出す。背後から「皆に話しますから!」と甲高い声が聞こえたが気にせず歩き続けた。俺は馬鹿だ。





「彼女に会わせてくれ」

「お断りするわ」

「頼む、どうしても会いたいんだ」

「あなたに名前と会う権利があると思う?馬鹿な真似はやめなさい」


彼女とは違う緑色の目が俺を睨む。そんな目で見られたって怯むわけにはいかない。彼女に会いたい、会って話がしたい、会って話をして抱きしめたい。ちらちらと俺たちを見てくる視線も気にならない。そうだ、最初からこうしていればよかったんだ、彼女を傷付けたくないから誰にも気付かれないようにしたのに。最初から公言していればこんなことにならなかったはずだ、彼女を傷付けることもなかったはずだ。


「名前」


絞り出した声は震えていて、自分が情けなくて笑えてくる。でも何よりも情けないのは名前を傷付けた俺だ。エバンズの向こうにある扉をずっと見つめ続ける。どうしたら出てくる?どうしたら俺を許す?簡単に許されるとは思っていない、それでも話がしたい。キィと扉が軋んだ。心臓が疼く。ああ、名前だ。俺を惹きつけて離さない名前だ。


「何の用?」

「名前、聞いてくれ」

「私とブラックくんって何の関係もないよね?同じ寮ってだけだったよね?ブラックくんだってそう言ってたじゃない」


真っ黒な瞳には何の感情も無く、ガラス球のように俺を映す。俺をそんな目で見るな、頼むから。でも俺にそう言う権利はない。唇を噛みしめる。目からこぼれてしまいそうだから。手を伸ばす。届きはしないとわかっていても。


「ごめん」

「何が?」

「名前を傷付けたのは俺だ」

「だからブラックくんが私に何をしたの?私は何も知らないんだけど」

「俺は名前がすきだ」

「……っ」

「すきですきで仕方なくて、名前が話しかけてくれる前からずっとずっと名前のことを目で追ってた」

「う、うそ、だって――」

「女々しいだろ、俺。気付かれたくなくて認識してなかったなんて嘘を吐いた」

「……私に飽きてたくせに。私はシリウスに相応しくないって、ずっとそう思ってた!」

「違う、俺と一緒にいると名前が傷付く、そう思ったから」

「……最っ低」


ああ、俺は最低だ。名前は泣きそうな声だ。名前が泣く姿なんて初めて見た。それだけ俺を思ってくれていたってことか?それならいいのに。それに、俺を名前で呼んでくれた、シリウスって呼んでくれた。それが嬉しくてたまらない。


「さっき言ったこともそうだ、名前を守りたくて」

「…………」

「信じてくれないかもしれないけど、でも、俺は名前が一番すきだ」

「……俺を信じろ、とは言わないんだね。最初から疑ってかかるんだ」

「………それ、」

「まだ、夢を見させてくれるの?」

「夢じゃない、これは現実だ」


さらに手を伸ばして名前の手を掴んで引き寄せる。真っ黒な瞳からはぼろぼろと涙がこぼれる。それを唇で掬い取る。もう泣かせない、もう夢だなんて言わせない。




結城さん、リクエストいただきありがとうございました!
60000打を迎えられたのも、結城さんを含め、閲覧してくださる方々のおかげです。本当に感謝感謝です。
さて、20000打の時にリクエストしていただいた話の続きということでしたがいかがでしたでしょうか?今回はシリウス方面から書かせていただきました。お気に召されると嬉しいです。
それでは、これからもanilloをよろしくお願いいたします!