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休み時間に1人で図書室に来て本を読むのが好きだ。今日も窓際に座って中庭をぼんやり眺める。楽しそうに生徒がはしゃいでる。元気だなぁ、休み時間に元気に遊べるなんて若い証拠だよ、なんて年寄りじみたことを考える。腕をまっすぐ伸ばして机に突っ伏す。日の光が温かい。寝そう。でも寝るのは勿体無い。上体を起こしてさっき棚から取り出した本をぱらぱらと捲る。マグルの童話集。何だか懐かしくて手に取ってしまった。目次を見るといくつか読んだことがある物語が載っていて、じっと見入ってしまう。英語だとどういう風に書かれているんだろう。小さいころだとやっぱり日本語で読んだことしかないし、どんどん物語も書き換えられてるし、まったく同じ印象っていうわけじゃないよね。リリーも知ってる話、あったりするのかな。


「何読んでるんだ?」

「っ!?」


バンッと強く本を閉じてしまう。し、心臓が止まるかと思った。耳慣れた声だ、確認しなくてもブラックだってわかる。わかるけど、いきなり声をかけるのはやめてほしい。ブラックの方を振り返るとブラックまでびっくりしている。危うく叫ぶところだった。マダム・ピンスに怒られちゃうよ。ぐっと口を噤んで本を横に置く。ブラックが来たからには本を読むわけにはいかない。


「び、びっくりさせないで」

「悪い」

「ていうかどうしてここにいるってことがわかったの?」

「あー……エバンズに聞いた」


あれ?リリーに図書室行くなんて話、したっけ?まぁ多分部屋にも談話室にもいなかったから図書室とでも答えたんだろう。ブラックって本当にどこにでも現れるなぁ、何か探知機でも持ってるのかな。……ていうか、図書室で会うのなんて初めてかもしれない。ブラックが図書室にいるっていうのも何だか変な気分だ。さっき中庭にいた生徒たちみたいに太陽の下にいる印象が強い。


「で、何読んでたんだ?」

「まだ読んでないけど、マグルの童話集だよ」

「へぇ」

「ホグワーツにもこんな本があるなんてね。まぁマグル学があるからかもしれないけど」

「課題?名前ってマグル学取ってたか?」

「課題じゃないし、マグル学も取ってないよ。ただ懐かしいなぁって思って」


ブラックが私の背後から手を伸ばして本を取る。少し触れた腕が堅くてドキッとした。腕がふにゃふにゃゴムみたいだったら怖いけど。ぱらぱらとさっきの私みたいに本を捲っていくのが、何だか見ていて嬉しい。私と同じことをしてる。指、綺麗だな。手、大きいな。……私、何だか変態みたいだ。


「知らない話ばかりだ」

「あ、そ、そうなんだ」

「どうした?」

「何も!……やっぱりマグルの話だしね」

「ああ、そうだな。……白雪姫、眠り姫、姫の話が多いのか?」

「女の子向けの童話集だから。まぁあんまり普通の女の子が主人公の話はないかもね」

「ふーん」


自分が読もうとしていた本を読まれるって恥ずかしい。しかも女の子向けの童話集って……。だからって何か参考書とか実用書とか読んでいても変な顔をされそうだし。ブラックの顔を盗み見ると変な顔はしていないし、目だけで本を読んでいるみたいだ。……初めて会った時から髪が伸びたな、身長も伸びたかな。私は何が変わったんだろう、何も変わっていない気がする。今更身長がぐんぐん伸びるはずもないし、伸びるのは髪くらいかな。毛先を手に取ってみると、結構バラつきがある。ああそろそろ切らなきゃ。ブラックから視線をずらすと、通路を挟んで隣の棚からこっちをちらちら見てくる女の子たちがいる。あ、目線合っちゃった。少しツンとした表情で顔を背けられてしまった。


「Happy ever after」

「読み終わったの?」

「ああ、大体な。Happy ever afterが決まり文句なのか?」

「そうだね」

「そうか。……で、どこ見てたんだ?」

「え?」

「俺がこの本を読んでいる最中」

「……あ、ああ、向こう側」


ちらっとブラックが目を向けるとあの女の子たちが色めきだった。やっぱりブラック目当てだったんだ。まぁいいけど。ブラックが開きっぱなしのページを見ると白雪姫に王子様がキスをしている絵が描かれていた。ブラックが童話っていうのもイメージがないなぁ。それこそ参考書とか実用書とか、あとは悪戯の本とか読んでいそうな感じだ。……私が読んでたからかな、だったら嬉しいな。


「名前」

「え?……っ!?」


一瞬かすめたブラックの唇に瞬きを繰り返す。くっくっと笑うブラックにかあっと顔が熱くなった。い、いま、き、キス……!ブラックの向こう側からざわざわと女の子の声が聞こえてくる。み、見られてたってことだよね?いくら童話読んでたからって私にキスしなくたっていいじゃない!私にキスする必要もないじゃない!私死んでたわけでも眠ってたわけでもないじゃない!言いたいことはいっぱいあるけれどとりあえず恥ずかしくて机に突っ伏す。ああもういやだ、どこかに透明になれる道具ないかな。それよりもとりあえず帰っちゃったほうがいいよね。


「どこ行くんだよ」

「帰るの!」

「俺も帰る」

「一緒に来ないでよ!」

「嫌だ。大体ここにも名前がいるから来たんだぞ。だから一緒に帰ってくださいませんか?」


ブラックはそう言い、私に手を差し出してまるで王子様がお姫様にするみたいな礼をした。……様になっているところにいらっとする。ぐっと黙り込んだ私ににやっと笑いかけたブラックに本を投げつけたくなった。私は姫どころか貴族の娘でも何でもないのに。はぁ、とわざとらしいため息をついてブラックの手を取ってずんずん歩き出す。嬉しくないわけがない。私だって小さいころはこんな風に王子様が迎えに来てくれるんじゃないかって夢を見ていたんだから。……図書室に、とは思わなかったけど。




あんりさん、リクエストいただきありがとうございました!
60000hitを迎えられたのもあんりさんを含め閲覧してくださる皆さんのおかげです、いつも感謝感謝です。
そして「そのときまで」を好きと言ってくださるなんて本当にありがとうございます……!その番外編とのことでしたがいかがでしたでしょうか?なかなか甘くならない2人なのでどこまで甘く出来るか不安でしたがお気に召されると嬉しいです。
マイペースにもほどがある更新率ですが、これからもanilloをよろしくお願いいたします!