×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

カタカタと指が震える。恥ずかしさとか、そういうものからじゃなくて、恐怖で。一体全体どうしてこんなことになったんだろう。どうして私はシリウス・ブラックと一緒に医務室に向かっているんだろう。

思い返せば何のことはない、私は魔法薬が苦手なのだ。とてつもなく。あの成績のいい人しか覚えないスラグホーン先生にでさえ、“あのとてつもなく魔法薬が苦手な生徒”として覚えられている。不本意だ、いや、どうしようもないんだけど。毎回毎回何かしらミスをしていたら覚えられるに決まっているはずだ。……そもそも私はドジなのだ。とりあえず何もないところで転ぶ。側溝があったら嵌る。足を突き出された暁には転ぶどころか転がる。からかいの格好の餌食だ、特に、あの、同じ寮の、い、い、いた、悪戯仕掛け人の、特にシリウス・ブラックの。ゲテモノを何度私の方に投げてきたんだろう、何度魔法で転ばされたんだろう。両手両足の指の本数じゃ足りない。今思い返すだけでも涙が出てきそうになる。そもそも魔法薬の教室である地下牢にいるだけであの時の記憶は鮮明すぎるくらいに蘇る。スカートの中に入ってきたナ……ナメ……クジ……やら何やら考えるだけで悍ましいのに。

なのに何で今私はシリウス・ブラックと一緒にいるんだろうか。
それも、2人きりで。

今日の授業を反芻してみる。私は案の定ミスをした。スラグホーン先生はあきれるどころか慣れた杖づかいで私の失態を消失させた。もう怒られることもない、だからこそ落ち込んだ。私はこの授業を受ける意味があるのだろうかとさえ思った。植物系の調合ならまだ大丈夫だけど、そう自分の思い通りの薬だけ作っていればいいわけではないのだ。友達が「いつものことじゃない」と言ってくれたけれど、全く慰めになっていないことに彼女は気付いていなかった。もう一度最初から一緒に手伝ってくれるという言葉に頷いて気合を入れなおしたところだった。背後から爆発音が聞こえて背中に水鉄砲というよりも水大砲をあてられたような衝撃があって、教室が静まり返った。スラグホーン先生が慌てて私の方に駆け寄ってきて、安否を確認してきた。そして原因は、シリウス・ブラックとジェームズ・ポッターだったようだ。

原因であるシリウス・ブラックの方が私が医務室に行くのに付き添ってくれているのだ、理屈はわかる。でもおかしい。だってまた私のことをいじめるのだろう。それでこの帰りに湖とかに突き落とされたり、2階にある「姿をくらます飾り棚」に押し込まれたりするんじゃないだろうか。まだ死にたくない。……死ぬほどのいじめを受けたことはないけど。でも薬品をかけてくる時点でおかしい、こわい。またカタカタと震えだす指を必死に抑える。そして距離を取る。


「……痛いか?」

「…………」

「……おい」

「…………」

「聞けよ!!」

「っ!?」

「……あー…」


え、何?いきなり怒鳴られて、私何かした?何かされている方だと思うんだけど。それでも、怖い。まるで大型犬が吠えたみたいな声だった。授業中だよ、と言えば火に油を注ぐだけだから最善策は謝っておくことだ。だって怖いもの、これ以上怒られたくないもの、いじめられたくないもの。


「ご、ごめんなさい……」

「……何でお前が謝るんだよ」

「…………」

「………謝るのは、いつも…」

「…………」

「…………」

「…………」

「……何か言えよ」

「………えっ」


何かって、何を……?ど、どうして謝ったのに怒られたんだろう?わけがわからない。やっぱり私が為すことすべて気に食わないんだろう、だからこんなにイライラしているんだろう。早く医務室に着けばいいのに、そしてさっさとこの人から離れたい。大体まだジェームズ・ポッターの方がマシだった。でもあの人もなかなか理解しがたい、この人にひたすら「ほら!付き添ってあげないと!不安だろ!女の子じゃないか!」とか何とか言っていたけれど、彼が女の子扱いするのはリリーちゃんだけじゃないか。リリーちゃんと私を比べるのは烏滸がましいけれど。


「……聞いてるのかよ」

「……えっ」

「…………痛いかって聞いてるんだよ」

「……あ、いや、その、痛くない、です」


ぶっちゃけてしまえば痛くはない、ただ髪の毛に当たったから1ガリオン禿みたいなのが出来ていないか心配なだけだ。1ガリオン禿は一応女の子として困る。誰にも女の子扱いされていないけれど。この帰りに沼に突き落とされたりするかもしれないけれど。


「………お、……」

「…………はい?」

「……お、お前は相変わらず鈍臭いな」

「…………」

「大体どれだけ材料無駄にすれば気が済むんだよ、スラグホーンだって呆れ通り越してもうお前用の材料3回分くらい用意してるしな」

「…………」

「……あ…」


そ、そんなこと言わなくたっていいじゃないですか、とは言えない。事実だからだ。そもそも口答えする気なんてさらさらない。だからこの時間ができるだけ早く過ぎ去ってくれるのを待つしかない。こんなに医務室って遠かっただろうか。こんなに私は歩くのが遅かっただろうか。いっそ走ってしまえばいいのだろうか。それでもこの足の長ーいシリウス・ブラックにはすぐ追いつかれてしまうだろう。どんなに急いだって無駄なら私はこの苦痛な時間を黙ってやり過ごすしかないのだ、けど、


「……そうですよね」

「……え」

「私、本当にドジで、スラグホーン先生にも申し訳ないです。魔法薬の時間だけじゃないですしね、花瓶に変えろって言われてるのに如雨露に変えちゃったりとか、呼び寄せ呪文だって言われてるのに追い払い呪文しちゃったりとか」

「……ちょ、あ、その、」

「でも、私だって、医務室の場所くらい知ってます。1人で行けます。だから、もう、……ほ、放っておいてくだしゃい……!」


い、言ってしまった……!いや、か、噛んだ……!!恥ずかしい、でも恐怖の方が勝つ。コンパスの差は痛いほどわかっているけれど一生懸命走る。いやでも、私は初めてあの人に反抗することができたんじゃないだろうか。今日を記念日にしてもいいくらいじゃないだろうか。鼻歌でも歌ってやろうかと思って息を吸い込んだら転んだ。……罰が当たった?それともシリウス・ブラックのせい?バッと起き上がって後ろを振り返るとシリウス・ブラックが気まずそうに駆け寄ってきた。


「お、俺じゃないぞ!お前が、勝手に……」

「……ハイ」

「………その、悪かった」

「………えっ!?」

「い、今まで、全部、悪かった!さっきも!薬も!」


真っ赤になりながら突き出して来た手に呆然としてしまう。あ、謝った、あの、シリウス・ブラックが。私が転ぶたびに泣きそうになるたびに爆笑していたあのシリウス・ブラックが。もしかしてこの手も私が掴んだとたんに離すとか、いや引きづり回すとかするんじゃなかろうか。業を煮やしたようにシリウス・ブラックが私の手を掴んで立たせる。ぐんと近づいた距離に目がちかちかした。


「い、行くぞ!」


ずんずん歩き出したシリウス・ブラックになされるがまま続く。こ、これはどういう状況なのでしょうか、一体どこに連れて行かれるんでしょうか、私は無事に医務室に着けるのでしょうか。でも一番不思議なことは、私の心が今恐怖で震えているわけではないことなのですが、これはいったいどういうことなんでしょうか。




わらびさん、リクエストいただきありがとうございました!
hp再熱おめでとうございます!そして拙宅を探していただいていたとのこと本当に嬉しいです、幸せです……!60000ヒットを達成できたのもわらびさんを含め、閲覧してくださる皆様のおかげです、感無量です。
さて、「hpでシリウス。昔仕掛け人に虐められてた事のある女の子」というお話でしたがいかがでしたでしょうか?何だかだらだらと長くなってしまいましたし、シリウスは思った以上にヘタレてしまいましたが、いつでも書き直し受け付けております。
それでは、これからもanilloをよろしくお願いいたします!