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監督生には何種類かの集会に参加する義務がある。全監督生が参加しなければならない長期休暇直後の集会、月1回の同学年の監督生が集まる集会、2週間に1回の寮全体の集会。これが定例だと決まっているだけで、召集されたらその都度集まらなければならない。この中で私が面倒だと思っているのは最後の寮集会だ。周期が短いからとかそういう理由ではないし、そもそも監督生としての仕事を誇りに思ってやらなければ我が家の沽券に関わる。監督生になって当然なのだから。そんな私でも、仕事の選り好みくらいはしてしまう。もっと全体集会と学年集会があればいいのに。


「おい、名前。行くぞ」

「ええ」


忘れるはずもないのだ。言われなくたって。





「出席を取ります。スリザリン」

「はい」

「レイブンクロー」

「はい」

「ハッフルパフ」

「はい」

「グリフィンドール」

「はい」


聞こえてきた柔らかな声にどきりとした。この男性が返事する制度はある意味男尊女卑なのではないかとよく言われているが、私はそれでもこの人の声を聞くことができればどうでもよくなってしまう……というのは言い過ぎなのかもしれないけれど。熱くなってきた頬を羽根ペンを取り出そうと鞄を漁ることで気付かれないようにした。何をしている、と同じスリザリンのもう一人の監督生かつ幼馴染に突っ込まれてしまったので無駄だったらしい。目敏いから嫌になる。

この会議で新しく決まることは少ない。全体集会での議題の確認、各寮の対応・現状の報告、その程度だ。今日も発言も問題提起もされず、マクゴナガル先生の号令で会議は呆気なく終わる。一気に雰囲気が弛緩して、メモを取るのに使っていた羽ペンを置く。今日もこれだけ。あの人と関わることはない。ちらりと盗み見るとエバンズさんと仲良く話している。ちくりと胸が痛い。いつものことなのに、何でもないどうしようもないことなのに。監督生なんだから一緒に話したりもする。監督生だから一緒に来たりもする。私だってフレデリックとしていること、何度恋人同士なのか聞かれたのか覚えていないくらい。それでも、私の感情は納得できない。スリザリンだから嫌われていそうで話しかけることも出来ない。……ただ単にスリザリンだということを言い訳にしているだけなのかもしれないけれど。ふぅと一息ついて羽根ペンやらを片付け始める。


「おい、まだ用事は済んでないだろう」

「え?」

「報告書を書け」

「……今度はあなたの番だと思っていたんだけれど」

「良いから書け」


ずいっと差し出された薄緑色の羊皮紙に、これ以上抵抗するのは無駄だと判断した。そもそもあの人に口答えしている姿なんて見せたくない。頬が軽く膨れてしまうのは許容範囲だろうと、そのまま羊皮紙を受け取る。そんなに時間もかからないだろうからここで書いて行ってしまおう、……っていうのは口実で、あの人が行くまでここにいたいだけ。羽根ペンを取り出さなきゃ。今日書かなくちゃいけないことは、


「これ」

「……え?」

「羽根ペン、使ってよ」


ふわりと微笑まれた。心臓が本気で止まった。この人の笑顔に禁じられた呪文と同等の効果があるなんて。血がまるで逆流したかのように苦しくなる。誰に向けた笑顔?誰に差し出された羽根ペン?ぽかんと呆けたまま、固まってしまう。ぐるぐると同じことが頭の中で反芻されて、酔ったように発熱したようにぼんやりとしてしまう。


「グリフィンドールが使ったのなんて嫌だった?」

「ち、ちが……っ!」

「そう、ならよかった」


ほら、と差し出してくれた羽根ペンを受け取ろうとする手が、震えている。自分でもわかるくらいだから気付かれているかもしれない。ああもう、落ち着いて、治まって。羽根ペンに触れそうだった指先を強くも弱くもない力で掴まれる。


「……っ!?」

「冷たい指だね」

「……は、羽根、羽根ペンは?」

「落ちてるよ」

「そ、そうじゃなくて、その、指、指を……!」

「駄目だった?」


駄目だった、というか、見られたらどうするの!?というのは声にならなくて、慌てて周りを見渡すともう誰もいなかった。マクゴナガル先生さえいなかった。見られなくてよかった、と思ったのもつかの間、掴まれた指をどうしたら離してもらえるだろうか。私から離すというのは無理な話だ。だって嬉しいんだもの。こんな手をしていたの、こんな強さで握ってくるの、知りたかったこと、でも知りたくなかった。この人の考えていることがわからない、これで欲しいと思えばもっと苦しくなるんだもの。


「アーロンは君の恋人?」

「……えぇっ!?」

「違う?」

「ちが、違うわ!ただの幼馴染で、」

「………そう」

「ど……どうして?」

「よかったな、と思って」


さっきとは違うほっとしたような笑みに落ち着いてきた心臓がまた跳ねた。どうして、よかったなんて、……期待しちゃうじゃない。握られていた指が熱さを取り戻してくる。とりあえず、悔しいけどフレデリックには感謝しなきゃ。




しらゆきさん、リクエストいただきありがとうございました!
「スリザリン女の子×リーマス」とのことでしたが、いかがでしたでしょうか?お気に召されると嬉しいです。あと監督生の集会については創作です。
それでは、これからもanilloをよろしくお願いいたします!