「え?」
「あれ、言ってなかった?」
愕然とするシリウスを見て吹き出しそうになったのを必死で堪えた。きっと苦虫を噛み潰したような顔をしてるんだろうと思って、慌てて屈んで靴紐を結びなおすふりをした。いけないいけない、これ以上シリウスの神経を逆なでするわけにはいかないもの。ただ、あんな顔をするなんて。ホグワーツ時代にこそこそとちらちらとこっちを見ていたあの女の子たちに見せてやりたいくらいだわ。カメラを持って来ればよかったかしら、と考えているうちに顔の筋肉が弛緩していく。だめだめ、堪えて堪えて。
「……ごめんなさいね」
声は震えていないだろうか。笑いを堪えたせいか不自然な声になっていないだろうか。シリウスは名前には決して向けないような険しい顔つきで私を睨んでくる。あら、ご挨拶。それでも怯んだりなどしないけど。
「私が、2人きり、で名前に話したいことがあったのよ」
「……そうか」
「ごめんね、シリウス」
「いや、いい」
まるで尻尾と耳が垂れたような情けない顔をするシリウスに再び吹き出しそうになる。まだ堪えて、せめてドアから名前と出るまで。名前はもう支度しているし、そもそもシリウスが名前の頼みごとを聞かないはずもないから、私と一緒に名前が出かけることになるとは決まりきっているのだけれど。結果がわかっていても、何度もこの過程を見ているのは本当に面白い。ジェームズも来ればよかったのに。あの人だったら私が笑いを堪えているのを尻目に爆笑するに決まっている。
「じゃあ行ってくるね?」
「……ああ、気を付けて」
「ごめんなさいね、名前を借りちゃって。折角のお休みなのに」
「…………いいから行って来い」
あら、またもやご挨拶。もう、と名前が頬を子どもみたいに膨らますと慌てて弁解している。今から尻に敷かれているなんて、将来が楽しみだわ。……まだ結婚は許すつもりはないけれど。
彼らの休日は世間一般の休日とは異なるせいか、ロンドンはあまり混雑していなかった。たわいもない近況を報告しながら、マグルの夫婦が切り盛りするカフェへと入る。随分前にチュニーが手紙でダーズリー氏と来たとかなんとか言っていたような気がする。落ち着いた、普通の店だ。定番のアフタヌーンティを注文して、ふぅ、と2人で一息つく。何だかんだ言っても、お互い忙しくて会えなかったのだからさみしいと感じていたみたいだ。守護霊を使って時たま連絡を取り合っているとしても。
「あのね」
「何かしら」
「リリーはジェームズと一緒にいられて幸せでしょう?」
「ええ。とても幸せよ」
「……私も、一緒にいられるだけで幸せなんだけどね、それでも、それ以上のものを求めちゃうのって贅沢なんだろうなぁって」
守護霊を使って会話するのは本当に事務的なことだけだ、例えば生死とか。こうやって会ってみないと話せないこともあるのだと改めて思う。ただ、内容はおかしいくらい変わっていない。名前はずっとシリウスのことがすきだった、ホグワーツにいたころからずっとすきだった。シリウスが話題に挙がらない日はなかったと言っても過言じゃない。……今でも変わらないのね。変わっていないことに呆れつつも嬉しくもある。
「シリウスだってきっとこれからのことを考えてるわ」
「んー……」
シリウスは時々私に恨みがましい目を向けてくる。多分、名前が私に取られてしまうとかくだらないことを考えているのだろう。そんなことは有り得ないのに。名前はあなたのことがこんなにもすきだっていうのに。
「あっ、ごめんね、私ばっかり話して」
「いいのよ、いつものことじゃない。変わってないのね」
「そう言われちゃうと……」
「本当にシリウスのことがすきなのね」
「……うん、だいすき」
どうしてこんなにかわいい表情に気付かないのかしら、本当にばかだわ。まぁ、簡単に気付くなんてつまらないし、まだ私だけが知っていればいいわよね。
「……全く、あいつもまだまだね」
「え?」
「こっちの話」
おかゆさん、リクエストいただきありがとうございました!私も60000打を迎えられたことに驚きと喜びでいっぱいです。おかゆさんを含め、閲覧してくださる方々のおかげです、本当にありがとうございます!私のこんな稚拙なサイトをだいすき、と言ってくださるなんて本当にうれしいです、これからもおかゆさんに楽しんでいただけるものを書いていけるように頑張ります。
さて、「シリウスにはまだまだ負けるつもりのない親友リリーのお話」とのことでしたが、いかがでしたでしょうか?私の書くシリウスもリリーもすきと言っていただけるなんて本当に飛び上がるような思いです。リリーが思った以上にヒロインのことが好き好きになってしまいましたが、きっとこれでもシリウスのことを温かく見守ってくれているんだと思います(笑)
それでは、これからもanilloをよろしくお願いいたします!