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「行くな」


ローブの裾を掴まれる。周りには誰も何もいない。ホグワーツの地下は寒い。石で出来ているからなのかもしれない、なんて思った。声は立ち上がったわたしよりも低いところから放たれた。やわらかそうな髪で覆われた後頭部を見つめる。普段はそう思ったりはしないしそうであるはずもないのに、彼がものすごく小さく感じた。まるで子供のようだった。拒否するつもりは毛頭ないけれど、この姿を見たら拒否できるはずもない。彼の隣に腰掛ける。わたしのローブを掴んでいた手を掴んで離す。


「行かないよ」

「嘘だ」

「何でそう思うの」

「誰も僕の傍に居てくれないからだ」


彼がわたしの手を掴んだ。骨が軋んだようで、掴まれた先から血の気が失せていくようで、ああ痕になってしまうな、なんてぼんやりと考えた。彼はわたしを見ようとしない。顔にかかった髪で表情を窺い知ることも出来ない。掴まれていないほうの手で彼の手に触れる。かたくてつめたい手だ。ぴくりと手が震えて、ゆっくりと離される。じんじんと手が痛んだ。止められていた血が流れ出したみたいだ。


「誰も居てくれないの」

「ああ」

「そう」

「君だってそうだろう」

「誰がそう決めたの」

「君に、他の誰かと違う点があるのか」


ふと考える。はたしてあるだろうか。すぐ答えられないわたしに彼はいらついたようだった。一体どんな答えを期待しているんだろう。残念ながらわたしは絶世の美女なわけでも、首席や監督生になれるほど品行方正なわけでも、はたまたクィディッチチームに所属できるほど箒に乗るのが上手いわけでもない、他者に比べて突出する何かをすぐに思い浮かべられはしなかった。


「ごめん」

「どうして」

「こんなことが言いたいんじゃないんだ」


彼の、レギュラスの顔を見るのは久々なんじゃないかと錯覚を覚えるくらいだ。灰色の透き通った瞳は怯えているとも困惑しているとも感じ取れる。まるで消えてしまいそうだ。怖くなってレギュラスの手を握り返す。まだつめたいままだ、ふるえてさえもいる。わたしに握られていないほうの手で髪を掻き毟る。そんな風にしたら、せっかく綺麗な髪の毛なのに傷んでしまう。わたしを見つめている瞳はだんだん潤んできて今にも涙があふれそうだ。


「ごめん」

「だから、どうして」

「どうしたら良いのかわからないんだ」

「ねぇ、ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ」


レギュラスはまるでちいさなこどものようにくしゃくしゃに顔をゆがめている。瞳は透き通っていて、その瞳にわたしが映っている。お願いだから泣かないでほしい、わたしの指なんかで拭ったらレギュラスの綺麗な涙が穢れてしまいそうだ。


「どうしたら、嫌わないでいてくれる」
「大事な人は僕を置いていく」
「大事な人は僕を見てくれない」
「こういう自分も大嫌いなんだ」
「自分が嫌いな自分を、どうしたら君が嫌われないでいられるっていうんだ」
「それでも嫌わないでいてほしいんだ」
「怖くてたまらないんだ」
「君にそばにいてほしい」
「ただそれだけなのに、一生叶わない願いに思えるんだ」


まるで堰が決壊したようだった。レギュラスは声を張り上げたわけでも何でもないのに、レギュラスの言葉はわたしの心に怒涛のように押し寄せ浸透していく。レギュラスのほんとうの声を聞いたのは初めてかもしれない、いやそもそもほんとうの他人の声自体聞いたことなどないかもしれない。レギュラスの言葉が嬉しくてたまらない。レギュラスが苦しんでいることが嬉しいわけではない、わたしへの気持ちを聞けたことが嬉しくてたまらない。普段彼が言葉にしないわたしへの気持ち。どうやったらレギュラスを嫌いになれるだろう、どうやったらレギュラスを突き放すことができるだろう。どちらもわたしには無理な話だ、レギュラスに頼まれても無理な話だ。


「わたしにはあなたを嫌うことが出来ない」
「置いていきもしないし、無視したりもしない」
「わたしはそういうあなたがすき」
「あなたが嫌いなあなたでも、わたしはあなたをすきだから」
「怖いならわたしの名前を呼んで、そうやって思いを伝えて」
「いつだってわたしはあなたのそばにいる」
「わたしがあなたのそばにずっといることで証明するから」


おさないこどもがするようなキスをレギュラスのまぶたに落とす。長い睫毛で囲まれたまぶたがゆっくりと瞬きをして、一筋の涙が流れて止まった。




らりるさん、リクエストいただきありがとうございました!
シリウスorレギュラス相手の「愛情に飢えているが故に、人の愛し方がわからないお話」とのことでしたがいかがでしたでしょうか?レギュラス相手で書かせていただきましたし、頂いた素敵なリクエストを生かし切れているかもわかりません、申し訳ございません。いつでもご要望等受け付けております。
それでは、これからもanilloをよろしくお願いいたします!