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私は多分素直じゃないんだと思う。パチンと音をたてて携帯を閉じながらため息をついた。これ、何回目?会いたい、なんて今更言えないし、もし言ったところで「は?俺が忙しいの名前だって分かるよね?」なんてあのとーっても素敵な笑顔で一蹴されるのが落ちだ。それにいちいち傷付く自分が居るから、もう傷付きたくないと思って妙な防衛意識が高まった。私には根本的に可愛くなる要素や素直になる要素がないのかもしれない。


「会いたいな」


言葉に出してみればたった5文字で、メールで送っても届くまで2分もかからない。なのに言えないのはあいつのせい、ではなくて私のせいなんだけど、やっぱり素直になれそうにない私はなかなか自分のせいだって認めることが出来ないみたいだ。

大学生になるってことは、自分が選択する機会を更に与えられるってことだと思う。だからこそ、立海にはない学部を選ばなくちゃいけなくて、外部受験。別に私だけがこういうことになったわけじゃないし、そもそももう友達がいなきゃどこそこにいかない、なんて言う歳でもない。後悔、はしてないんだと思う。だけどそれをあいつに言った時の反応はもう筆舌に尽くしがたい。あそこまでダイアモンドブリザードを放たれたことって今まであったかな、くらいな感じで。にっこり笑いながら「へえ、そう」って言ったあいつは眼力で人を殺せるんじゃない?いや、マジで。今思い出しても背筋がぶるって震えるくらいだ。私、良く心臓止まらなかったな。でも、嬉しかったのも事実だ。私の頭はどうやらおめでたい解釈をするみたいで、私のことをちょっとでも思ってくれてるのかな―なんて思っちゃったりして。実際に暴力を振られたら困るから黙って置いたけど、にへにへ笑いながら丸井とジャッカルに話した。丸井は爆笑しながら「ねーよ」なんて言ってたけど、優しい優しいジャッカルは「あるんじゃないか。あいつだって案外名前のことすきだからな」なんて言ってくれた。案外っていう言葉に「は?」とか思ったけど、ジャッカルの言葉がすごく嬉しくてそこはスルー。ほら、私って見ての通りおめでたい思考回路だから、あいつも見送りに来てくれるかなーとか期待してたんだけど、皆無だった。メールも電話も無かった。自分から催促するのも悔しくて、電車に乗ってもみんなの姿が見えなくなってもあいつにメールも電話もしなかった。そのままずるずる音信不通。これって付き合ってるって言えるの?自然消滅ってこと?別れようなんて言われてないよ?もう新しい彼女と付き合ってるのかもしれない、とか思って私も彼氏を作ってみようかな、とか思ったけど、無理だった。だって私にはあいつしか考えられないんだ。ここまですきなのに、ここまで素直になれないなんて馬鹿じゃないの。あいつに言えば良かったのに、「見送りにきて」とか、せめて「行ってきます」とか。今更後悔したって何の意味もないけどさ。結構地元から遠いからなかなか帰れそうもないしさ。向こうだって、もう私のこと覚えてないかもしれないからさ。会っても寂しいと思うけどさ。

ピンポーンと間抜けな音が鳴った。視界がいい感じに潤んできて、泣いてる女の子って可愛いよねとか自画自賛みたいなことしてたのに、誰だよ。思わず舌打ちする。これで郵便とかだったらマジで不快。……あれ、こういう手口、あったよね。女子大生の家に「郵便でーす」とか言って押し入って殺す、とか強姦、とか……いや、ないな。そう言うのって可愛い女の子のところに来るもんだ。つまり、私にはない。なんだか空しくなってくる、急かすように連打されたチャイムにもね!


「はいはい!今出るっつの!」


声も苛々してきて、荒々しく立ちあがって携帯も放り出した。こんなけたたましくチャイムを鳴らすなんて非常識にも程がある。大体今何時だと思ってんの?結構良い時間たいですけど?少なくとも小学校低学年の少年少女たちは熟睡中な時間帯ですけど?隣の家に住むお兄さんは結構強面の御方で、ちょっと、いや結構怖いからご迷惑をおかけしたくないんですけど?とか思っててもこっちの事情は知る由もないらしい、引っ切り無しにチャイムは鳴り続ける。あーもううるさい!がちゃんと強くドアを押しあける


「はいはいはいはい!なんですか!」

「へえ、いい度胸してるね」

「…………え?」

「いつから俺にそういう口の聞き方、出来るようになったの?」

「………嘘、何で、」

「"あいたい"って送ってきたからね」


ふんっと鼻を鳴らしながら(、それでもかっこいいなんてどれだけイケメンなの?)携帯の画面を私に向けてきた。確実にその差出人は私の名前で本文は「あいたい」だった。嘘、いつの間に送ってたの?さーって血が引いていく。私、相当ヤバい。重いって、こんな女。視界が潤んで来て、その顔を見られたくなくて俯く。嫌われたく、ないのになぁ。私って本当に馬鹿だ。


「寒いんだけど」

「…………」

「中に入れてくれる?」


無言でスペースを空けるとさも当たり前だという顔をして入ってくる精市から、外のにおいと混じりあった精市のにおいがする。そんなの当たり前なんだけど、ずっと感じていなかった精市のにおいを感じて、それだけで嬉しくて泣きたくなる。私、どんだけ精市がすきなのかな。


「どうして、来たの?」

「……"あいたい"って送ってきたから」

「でも、だって、」

「へぇ、嘘吐いたの?」

「……嘘じゃない」

「だったらもっと喜べば良いのに。素直じゃないな」

「……素直になったら、嫌われると思って」

「"嫌われる"?どうして?」

「…………精市に、鬱陶しいとか思われたくない」


簡単に涙腺は崩壊していく、こんな不細工な私を見られたくなくて両手で顔を隠した。言っちゃった。精市は何も言わない。静かになった部屋に、エアコンの音だけが響く。言ってしまえば簡単なのに、もっと言いたいことがあるのに言えないのは、きっと私が臆病すぎるからだ。精市に会ったら言ってやろうと思ったことがあるはずなのに、もう何も言えない、もう見ることさえできない。


「ばかだね、名前は。そういう風に俺に変に気を使う必要なんてないのに」

「…………」

「名前はいつもそうだね、一番気を使ってほしくないところで俺に気を使う」

「…………」

「そういうところが、俺は大嫌いなんだけど」

「………っ」

「だいすきなんだよ、自分で気付かないのかい?」


ぎゅうっと強く抱きしめられる。身動きさえ取れない、こういう風に抱きしめられたのは久々で、反発しようという気持ちすら起きないんだけど。腕から丸ごと抱きしめられたから、私は精市を抱きしめ返すことすらできない。「俺としては、名前に素直に接してるつもりなんだけど」と頭上から聞こえてくる精市の声と、身体から伝わってくる振動が愛おしい。


「他の女の子には?」

「名前ぐらいしか、俺に付き合える奴なんていない」

「……分かってるじゃん」

「うるさいよ」

「ごめん」

「……髪の毛が伸びたね」

「そうかな?」

「うん、綺麗になった」


バッと顔を無理矢理あげると、見たこともない位優しい目で私を見てくる精市がいてまた泣きそうになる。そんな顔、今しないでよ。今見たらマジで泣きそうになる。不意打ち過ぎる。いつもは全然優しくないのに、どうしてこういうときに優しくなるの?どうして会いに来てくれるほど優しいの?期待しちゃうじゃん。


「その顔は可愛くないな」

「……うるさい」

「でも、すきだよ」


音をたてて落ちてきた精市の唇に目を閉じた。いつになったら私は精市にすきだって言えるの?精市は言葉にしてくれた。夢みたいな現実、これが醒めたらきっとまた涙が止まらなくなる。でも、抱きしめてくれる精市の腕は本物だって思える。私の唇からだいすきだっていう気持ちが伝わればいいのに。素直じゃないなぁ、そんな私をすきだって言ってくれる精市が、会いに来てくれる精市がすきだって、言えるようになればいいのに。可愛くなくてごめんね、だいすきだよ。




伊江侑紀さま、再度リクエストしていただきありがとうございました!私の書くシリウスを大好きと言ってくださるなんてとてもうれしいです。連載も短編も読んでくださっているとのことで……本当にありがとうございます、お世話になっております。さて、今回の幸村はいかがでしたでしょうか?実は私、幸村を書いたことがなくてあくせくしながら書かせて頂きました。おかげで偽物感が半端じゃない出来になってしまって、申し訳ございません……。これからもよろしくお願いいたします。