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欲しいものは大抵何もかも手に入れてきた。スリザリンには決して入らなかったし、かけがえのない親友も手に入れたし、居ても反吐しか出てこない家からは出てきた。自分で言うのもどうかと思うけど、俺は成功者、と言っても過言じゃない気がする。そんな俺をムーニーとかあのあたりが諌めるような目で見てくることもあるけれど、気にしたら終わりだ。だって一度きりの人生を自分の好きなように生きて何が悪い?ただ俺もひとつ気付いたことがある、人生って何もかも自分の思い通りに行くわけじゃない。


「なぁ、名字」

「え?」

「それ、楽しいか?」

「うん、すごく」

「俺と居るよりも?」

「やだ、何?比べる対象じゃないと思うけど」

「俺と居る時ぐらい、それを相手にするのをやめろよ」

「ごめん、それは無理」

「どうして?」

「どんな時でも考えていたいの」


そう言って微笑んだ名字は、俺の目の前にいる筈なのに俺のことをちっとも見やしない。なのに構ってほしいから話しかける。そして傷付くのは俺だけだ。"どんな時でも考えていたいの"と名字は言った。それは俺には全く関係のない、と言っても過言ではないものだ。名字の手には使いすぎて少し端々が擦り切れた闇の魔術に対する防衛術の、あいつが得意な教科の教科書で、名字の目線はそこから離れようとしない。その姿を見ていたいと思う一方で、俺のことを見てほしいとも思うけれど、ただ視線だけ俺を見てほしいとは思わない。我が儘だとは思う。だけど俺はいつも我が儘だ、それが俺だから変えられそうにもない。そうは思っていても、俺が今一番したくないことは名字を傷付けることだ。だからこそ俺は今何をしているのかと聞いても、何故やめないのかということを尋ねたり無理矢理やめさせたりしない。


「それ、楽しいか?」

「さっきも聞いてたよ、そのこと。すごく楽しいよ」

「でも、名字はその教科は苦手だったと思うけど」

「そんなことはどうでもいいの」

「どういう意味だよ?」

「さっきも言ったでしょ、どんな時でも考えていたいの」

「何のことを?」

「……ばか、言わせないでよ」

「言ってもらわなきゃ分からない」

「じゃあどうして分かりたがるの?」

「…………」

「さっきから意味が分からないよ、私に質問するばかり」

「じゃあ名字は俺のことを知りたいのか?」

「……どうして答えに困るようなことを聞くの?」

「素直になれよ、俺のことなんか興味がないって」

「そんなこと、」

「あるだろう。あいつに比べたら俺のことなんかどうでもいいって、そう思ってるんだろう?」

「……何なの?何を怒ってるの?」

「怒ってない」

「怒ってる、いつものブラックらしくない」

「……いつもの俺を何だと定義づけてるんだ?」


こんなことを言い合っても俺が傷付くだけだってことぐらい、良く分かってる。名字の視線はもう教科書に向けられてはいなくて、まっすぐ俺に向けられている。その目は困惑と不安に満ちている。それなのに、視線を向けられるだけで喜びを感じてしまう俺に自嘲する。何を苛立っているんだ、俺は。名字を傷付けたくない、とか何とか言っておいて、自分のいら立ちを名字にぶつけているだけじゃないのか?…いや、名字が傷付くことは有り得ない。だって、俺にいくら嫌われようが痛くも痒くもないだろう。


「ごめん。私が何かしたなら謝るから、怒ったりしないで」

「…………」

「私が何かしたんでしょう?ブラックは優しくて、そんなブラックに私はいつも甘えちゃう。迷惑だったら言ってくれていいから」

「…………」

「私はいつもブラックに助けられてるよ。どうでもいい、なんて全然思ったりしない。すごく、すごく大切な、」

「…………」

「友達」


想像通りの言葉だ。いくらいつも名字を見つめている俺じゃなくても、名字の目は決してあいつから逸らされることがないことくらい分かる。それが決して惑わされたりしないことも。だからこそ俺は誓ったんじゃなかったのか?名字を熱く思うのと同時に、あいつをかけがえのない存在だと思うから、俺は2人を傷付けたりしたくない。いや、あいつが名字をそのような対象だと認識しているかは別として、という仮定に結び付けても、多分名字はそんなことはどうでもいいんだろう、俺の存在を只の友人としか見做せないのと同じくらい確証を持って言える。それにあいつは優しい奴だ、もしも名字が思いを伝えたとしても、強く突き放すことはしない。だから、名字が激しく傷付くこともないだろう。つまり、俺は慰みものにもなれやしないんだ。一体いつになったら名字の目に俺が入り込めるのか、と疑問に思っても解答はいつも、有り得ない、に帰着する。それなら俺は、"すごく大切な友達"と言ってくれた名字に応えよう。頭を撫でて微笑んで、「俺もそう思ってる」と伝えれば、君は安心したように微笑むから。




いちいさん、リクエストありがとうございました!20000打を迎えられたのも、いちいさまを含め多くの方々のおかげです。私と言えばシリウス、切ないもの、と言ってくださるなんて嬉しいです。悲恋夢が好き、と言って頂いたので、結果的に結ばれない感じになってしまいましたがいかがでしたでしょうか?シリウスは結構自己犠牲的なところがある気がするので……。お気に召されると嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。