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疲れたよ、もう。とリリーに告げると、リリーはものすごく悲しそうな顔をした。イギリスで私の為にそんな顔をしてくれる人なんてリリーくらいしかいない、と認識してしまうとなんだかリリーがものすごく愛おしいと思えた。私は、こんなに思ってくれる人に今まで気付かなかった。私はリリーを抱きしめた、強く強く抱きしめた、今まで抱きしめたどんな人よりも強く抱きしめた。リリーの涙が私の服に染みを作った。その涙さえも愛おしく見えた。私は、リリーから身体を離した。もう行かなくちゃいけないと思ったからだった。どこに行くの。とリリーが慌てた声で私に尋ねた。慌てたってことは多分私があの時しようとしていたこと、今しようとしていることが分かっていたんだと思う。最後まで心配をかけてしまったリリーに私は謝ることしかできなかった。ごめんね。私がそう言うと、リリーのアーモンド形の緑の綺麗な目から大きな綺麗な涙が零れた。ああ、私はどうしてこうやって迷惑をかけることしかできないんだろう?自分が悔しくてあとで思い切り唇を噛みしめようと思ってそれを我慢した。最後くらいは、笑顔でいたかったから。ひらりと手を振ってリリーに背を向けて歩き出した。後ろから名前と呼ぶ声がした。今まで聞いたリリーのどんな声よりも悲痛な声で、どうやっても私はリリーを悲しませることしか出来ないらしかった。

私はいつも、さばさばしてると言われる。彼をすきになるまでは自分でもそう思っていた気がする。自分でもこんな風に人をすきになれるのだ。今まで恋人になった人には、申し訳ないと思うけどこんな感情をもったことがない。彼が誰かといるだけで、それがどんな人であれ、どろどろと汚い感情が私の身体の中で渦巻く。胸の奥でぐるぐるして、そのあとは全身にだんだん広がっていくこの感情の名前は、考えなくてもすぐに分かる。嫉妬だ。最初はそんなことがないと記憶している、だって彼はいつも私と一緒にいてくれたから。でも、彼は今別の人と一緒にいる。彼は私に飽きた、その事実が今も突き付けられている。突き付けられていても、認めることができない自分がいる。私は彼がすきで、ただすきという言葉だけじゃ表わせないほど彼がすきだ。彼が私に飽きた今でもすきだ。その1つの事実が、私を今突き動かしている。いやもう過去形だ。私はもう疲れている、彼をすきでいることに。私はもう、嫌になっている。

もう傷付きたくないと思い始めた。そう思い始めたのは考えてみれば随分前のことだった。彼が私とのデートを断り始めた、彼が私と会わなくなり始めた、彼が私とは違う女の匂いを纏い始めた、彼が私を面倒だという目で見始めた、彼が私を無視し始めた、彼が私とすれ違う時に違う女の子と一緒にい始めた、彼が、彼が、彼が。考えてみれば兆候はあったのに、私は彼を諦めようとしなかった。私は傷付きたくないと思いつつ、彼の傍にいたかった。どう足掻いたら彼の気持ちは私のところに戻ってくるのかということに躍起になっていた。そんな私を、彼の隣にいた女は可哀想なものどころか虫けらでも見ているかのように見ていた。それに羞恥を感じていた。彼はどうだったのかということはわからなかった。

びゅうと強い風が吹く。彼と初めてデートした場所はホグワーツで一番高い塔で、今私はそこにいる。始められた場所が、終わる場所になるのは我ながら良いアイディアだと思う。隣には誰もいない、それでいい。私は彼に分からない方法で全てを終わらせたい。
嘘だ。いつだって彼にそばにいてほしい。もうすきでいることに疲れた今でも、私は彼を求めている、求めることが当たり前になっている。
ねえ、今どこにいるの?ねえ、今誰のことを思ってるの?ねえ、今誰のことを抱きしめてるの?
知りたい、知らないのが怖い、知るのが怖い、知りたくない。
私は、彼のことを知らない。きっと、これからも。

しなくてはならない魔法がある。上手くいくかどうかは分からない。でも、上手くいかせてみせる。私は自分の米神に使い慣れた杖の先を当てる。ゆっくりと、初めて使う呪文を唱える。


「オブリビエイト」


でも私は、彼が、シリウスがすきだった。
ううん、すきなんだ。




何故か私はホグワーツで一番高い塔で仰向けになっていた。体中が冷えていた。何でこんなに薄着なのか自分でもわからなかった。そのまま上を見上げると、もう朝になっていた。とりあえずグリフィンドールに戻ろうと思って起き上がると、頭がずきんと痛んだ。その痛みが何故生じたのか分からなかったけれど、フィルチに怒られたら困るから出来る限り早くその場から離れた。音をたてないように出来る限り早く階段を駆け下りて、慣れ親しんだグリフィンドールに向かった。その途中、見たことがない男の人とすれ違った。私よりもかなり身長が高くて、映画に出てくるみたいにハンサムな男の人だった。私を見て驚いたような顔をしたけれど、私はその人を見たことがなかったから無視をした。ただ、あの人の流れるような黒髪と、綺麗な灰色の瞳が網膜に映し出された瞬間、また頭がずきんと痛んだ。あの人の隣を通り過ぎたときにした鼻につく香水のにおいで鼻の奥がツンと痛くなって、私の目からはぼろりと涙が零れた。その涙に驚いて、歩きながら何度も擦って止めようとしたけれど、どうしてもとまらなかった。でもこんなに擦ったら赤くなってリリーに心配されてしまうと思った私は、擦るのをやめて涙が流れるままにした。1日の始まりから、おかしなことばかりだった。




沙梨さま、リクエストありがとうございました!今回も参加していただけるなんて本当にうれしいです。前回の件につきましては、私も深く反省しております。お気になさらないでくださいね。前サイトにあったようなシリウスが浮気しちゃう話、とのことでしたが、いかがでしたでしょうか?浮気の話は2パターンあって迷ったのですが、結局バッドエンドにしました。これからもよろしくお願いいたします。