風が強く吹いて、隣に座る自分より長い髪を揺らす。それに一瞬見惚れてしまったことは否めない。僕らにしては珍しく高い木の上に登っているから、風が吹くと尚一層強い風に感じてしまう。
「どうかした?」
「……え?」
「リーマス、ぼんやりしてるから」
「らしくないよ」と笑い混じりに僕を見てくる名前は、もう斜めになった日の光に照らされていつもとは違った顔に見える。その姿にまた一瞬見惚れた。初めて出会った頃より伸びた髪の毛、成長したと言っても身長の差も随分拡がってしまった。それに優越感を感じる。1年生の頃は名前と大した差がなかったから恥ずかしかったけど、今ではその恥ずかしさを感じることもない。僕より随分下にある頭にそっと触れる、強く触れたら壊れてしまいそうだ。
「っ!?」
「あ、ごめん」
「う、ううん、大丈夫!……どうかした?」
「触りたくなって」
「……え?」
「嫌だった?」
「ち、違う……っ!けど、は、恥ずかしい」
真っ赤になった顔が俯く。また一瞬見惚れた。名前は幾度も僕を惹きつける。それも無意識に。ひいき目に見てもきっと僕だけに当て嵌まるものじゃないから困ったものだ。……もし、僕だけしか知らなかったら、こうどろどろとした感情を知ることもなかったんだろうな。僕とは違うさらさらとした髪に、これから触れるのはきっと僕じゃない人も含まれている。どろどろどろどろ、汚い感情が僕の心を満たす。
「リーマス?」
「……ん?」
「本当にどうしたの?暗いよ」
傷だらけな僕の手に触れる綺麗な名前の手、きゅっと握り締めるとぴくりと反応する手。面白くなって愛おしくなって、その手に音をたてて口づける。急いで離れようとする手を僕は決して離さない。
「な、何!?」
「別に、何も」
「〜〜…っ!リーマス、って、変なこと、するよね、時々」
「名前がすきだから」
「……ほら、そうやって」
「"そうやって"?」
「……リーマスは恥ずかしいこともべらべら言えるから良いけど、私には無理」
「ふーん」
折れそうで折れない枝の上を動く名前を見つめると更に顔が赤くなっている。そういう顔を、これから見るのはきっと僕じゃない人も含まれている。またどろどろとした感情が僕の心を満たす。じゃあずっと見つめていれば良いんだ、彼女のことを。たとえ誰か別の人に見られたとしても、それ以上に僕が名前を見つめれば良い。
でも、それが出来たら誰だって苦労しない。こんな感情が僕の心を満たすなんてこともない。
「ねえ、名前」
「……何」
「すきだよ」
「……っ!だ、だから、すぐそうやって、」
「名前は?」
「……え?」
「名前は、僕のことがすき?」
「…………」
「答えて」
「…………」
「そういえば、名前がすきって言ったことってないよね」
「……わ、わかるでしょ」
「わからない」
「ど、どうして?」
「僕は名前じゃないから」
「……それはそうだけど」
「じゃあ名前は僕のことがすきじゃないんだね」
「……っ!」
いきなり名前が振り返る。その目からは涙が零れそうで、不謹慎にもまた見とれた。ああもうこんなにも惹かれてるなんて、名前は知りもしないんだろうな。真っ赤な林檎みたいな顔がすごいスピードで近付いてきて、一部分で触れ合う。やわらかな音をたててお互いのそれとそれが離れていく。何度もしてきた行為のはずなのに、ただそれが名前からしてきたというだけで僕の顔は熱くなる。
「名前、」
「こ、こんなこと、私からするの、リーマスにだけだから!」
「…………」
「だ、黙らないでよ……!」
「これからも?」
「え?……う、うん」
「僕にだけ?」
「……う、ん」
その言葉にどれだけ僕が安心して、僕がどれだけ名前を愛おしく思うかなんて、名前は知らなくて良いんだ。そのかわり僕がただ名前を抱きしめるから、その強さだけでも心に焼き付けて欲しい、これからもずっと忘れないように。
蒼珠さま、リクエストありがとうございました!シリウスの長編夢も読んでいただいているとのことで、本当に嬉しいです。卒業シーズン(イギリスでは夏ですが)になってしまったので少し切なめなリーマスになってしまいましたがいかがでしたでしょうか?これからもよろしくお願いいたします。