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「どうしてあなたがシリウスの恋人なのかしら?」


何度向けられた言葉なのか、数えるのも嫌になる。こういうときは下手に答えるよりもただ黙っていた方がいい、と知ったのは結構前のこと。ただ黙っていたら更に冷たい言葉を浴びせられて、運が悪いときは魔法まで掛けられるからいつの間にか私の行動は素早くなってきた。最初は苦手だった闇の魔術に対する防衛術の授業も、いい感じの成績を取れるようになってきた。シリウスと恋人になってから。それでも向こうの方が上手のときは怪我をしてしまう。シリウスは私の汚い傷を見て、眉間にぐしゃっと皺を寄せて悲しそうな顔をするから、いつからか私はそれを隠すようになった。今回の女の子は私よりも年下(なのに私に敬意を払おうとしない)だから、私の方が上手。上手に逃げられたけど、私のローブは若干傷付いていたり汚くなっていたり。ため息を吐いてレパロとスコジーファイを唱える。悲しくないわけじゃない、傷付いていないわけじゃない。でもシリウスのことをすきな女の子はたくさんたくさんいて、その人たちを私は傷付けてるのは事実。女子トイレの鏡に映る私の顔はお世辞にもものすごく美人とは言えなくて、ホグワーツの中でも私よりも綺麗な女の子はたくさんいるのに、シリウスは私を見つけてくれた、私を選んでくれた。そのことに感謝していないわけじゃないし、嬉しくないわけでもない。だけど、それで私は良いの?たくさんの女の子を傷付けてまで私のことをすきでいてくれる?その保証は?臆病な私は、私に自信がない私は、どうしてもシリウスが私のことをすきだと言ってくれた理由が分からない。鏡の中の私の顔が歪んでいく、違う、私の目が潤んでいく。

思えば私とシリウスの接点は、同い年で、同じ寮で、選択科目が似通っていた、それだけ。私は自分でもわかるほど世界に埋没するのが得意で、ヒロインにはなれない人間。そんな私とは違ってシリウスはヒーローになれる。それは私がシリウスと接点を持つずっとずっと前から、シリウスを初めて認識したあの時から、分かっていたことだった。ヒーローになれるシリウスには、きっとヒロインになれる女の子が似合うんだろうなって、それはシリウスの恋人になってから分かった。薄々気付いてきたことに気付かないふりをして蓋をして、せめてシリウスの前では笑顔でいようって思っていたけれど、シリウスの親友である眼鏡のあの人にも「あ、君、いたの?」とか言われて素で(だと思いたい)気付いてくれない私を、どうしてシリウスはそばに置いてくれるの?私のどこをすきになってくれたの?シリウスを信じられなくなって来て、そんな私が更に嫌いになって、私が大嫌いな私を誰がすきでいてくれるんだろうって、悲しくて悲しくてたまらない。耳障りな音が耳に響く。目の前にあった鏡が割れて、私の顔がばらばらに移る。手に鋭い痛みが走って、赤い血が見える。シリウス、と呼びたいのに声は出なくて、鏡にばらばらに映った私の顔の唇が一斉にシリウスと動く。もう、呼ばない方がいいのかな。言ってしまおうか。




「珍しいな、俺に会いたいって言うなんて」

「そう?」

「名前ってあんまりそういうことを言うイメージがないから」

「嫌だった?」

「何言ってるんだよ、そんなことないさ」


「嬉しいよ」とシリウスは笑う。その言葉に私は嬉しくなって、期待してしまう。でも、言わなくちゃ。もうこれ以上他人を傷付けて生きたいなんて思えない。……違う、こんな綺麗な気持ちを私は持っていない。私はただ、あの女の子たちの言葉はまるでナイフのようで、切りつけられているようで、これ以上私が傷付きたくないだけ。汚くて醜くてシリウスを信じられない私。シリウスの手が私の右手に触れる。


「何だよ、これ」

「……怪我しちゃって」

「どうして?もしかして、怪我させられたのか?誰に?」

「違うよ、私が自分でやっちゃったの」

「……本当に?」

「うん、信じて」


シリウスを信じられない私が、シリウスに信じてなんて言うなんて。1つ得意なことを見つけた、私は嘘が上手いらしい。シリウスは私の頭を優しく撫でて、「気をつけろよ」なんて言う。本当にヒーロー。このヒーローが、私がシリウスの手を放したら私以外の誰かの頭をこんなに優しく撫でるの?こんなに優しい言葉をかけるの?それは嫌、でも駄目。シリウスの手を自分の頭からどけようと自分の手で触れると、痛かった。


「別れてくれる?」

「………は?」

「シリウスは私と一緒にいるべきじゃない」

「…俺を、嫌いになったのか?」

「違うよ、大すき」

「じゃあ、」

「もう嫌なの。疲れちゃった」

「……本気なのか?本気でそう思ってるのか?」

「……うん」

「……………そうか。じゃあ、いいよ。別れよう」


シリウスは私に背を向けて歩き出す。私もシリウスに背を向ける。声を出さなければ泣いていい?シリウスに見られなければ泣いていい?確認するまでもなく私の目からはぼろぼろ涙がこぼれ出して、声を出さないように口を覆う。嘘じゃない、シリウスに告げた思いは嘘じゃない。私はシリウスが大すきだけど、もう疲れた。


「ばか!」

「………っ!」

「泣くぐらいなら嘘なんて吐くな!」


肩をすごい力で掴まれて、唇に柔らかいものが当たる。限界まで開いた私の目の網膜はシリウスを映し出す。着いては離れて、何度もキスをされる。痛いのも構わずシリウスのシャツを強く掴む。これは夢なの?シリウスは"別れよう"という私の言葉に納得してくれたのに、今は私にキスをしてくれる。


「嫌だ」

「……え?」

「別れるなんて、嫌だ。名前が泣いているのに放っておくなんて嫌だ。俺がお前の涙を拭くから、お前を受け止めるから、だから、」

「…………」

「離れないでくれ、俺から」


全身を締めつけられる。痛みを感じる手だけじゃなくて全身に血がどくどくと通っているのを感じる。シリウスの言葉はまるで映画の中で幸せになれる女の子に向けられるもののようで、でも私に向けられたもの。私からもお願いがあるの、シリウス。ヒーローになれるあなたのヒロインは私だけがいい、ずっと。




美咲さま、リクエストありがとうございました!モテモテシリウスと地味目ヒロインで切甘、とのことでしたがいかがでしたでしょうか?これからもよろしくお願いいたします。