×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

悠一郎くんは独占欲が強いってよく友達に言われるけど、私には恋人に対してじゃなくて、まるでそれは子どもがお母さんを独占したがっているみたい、と思うことは少なくない。だから私は敢えて悠一郎くんを子ども扱いする。それが気に食わない、っていう顔をされたりもするけど、私からしてみればそれも子どもっぽく見えてしまう。ていうか子どもっぽい、って思わなきゃ私の体面が保てない。一度だけ悠一郎くんの出ている試合を見たことがある。遠巻きにちらっと見ただけだけど、それでも悠一郎くんはただの高校生には見えなくて、ただ1つのことに真剣に打ち込んでいる悠一郎くんはものすごく格好良くて、私よりも随分大人に見えた。私なんかただ歳をとっているだけ、って自覚してしまったから尚更私は悠一郎くんを子どもだと思いこもうとしてる。それは自分でも分かってる。それに、悠一郎くんが私に見せる面はいつも年相応(とも言いきれない)表情ばかりだ。だから油断してた。悠一郎くんは"男"なんだって思えなかった。


「悠、一郎くん」


情けないほど自分の声が震える。本当に情けない、幾つなの、私。寒くてかじかんだ私の手を強い強い力で悠一郎くんの熱い手が握りしめてずんずん歩く。私が悠一郎くんを呼んでも見向きもしない。私が見えるのは少しだけ赤くなった耳と、短くて柔らかそうな髪の毛、大きな背中。繋がれている手がぎゅうっと強くなって痛いくらい。こんなに"男"っぽかったっけ?失礼だけどそう思ってしまうのはしょうがないと思う。悠一郎くんの一歩はかなり大きくて、私はもつれそうになりながらついていく、ていうか連れていかれる。くいっと引っ張ってみても無意味。こんな悠一郎くんは初めて。どうしたらいいの?私、何かしたっけ?


「ねえ、」

「…………」

「悠一郎くん、痛いよ」


パッと足が止まる。よろめきながら私は悠一郎くんの背中に衝突する。口から変な声が出る。だっていきなり止まるから、なんて言い訳がましいことを考えてみるけど、悠一郎くんが止まったからと言って何が解決したわけでもない。私の顔を決して見ようとしない悠一郎くんは少しだけ手の力を緩めたけど私の手を放そうとしない。まるで知らない人みたい。そう思ってしまったら急に怖くなった、悠一郎くんが何を考えているのかがちっともわからない。私が思っていた悠一郎くんはどこに行ったの?無意識に強く悠一郎くんの手を握り締めると、反応が返ってくる。それでも私を見ようとしない。どうしたらいいの?


「悠一郎くん、」

「…………」

「ねえ、返事し―」

「なぁ、」

「……え?」

「さっきの誰?」

「さっきの、って、」

「名前さんが話してた相手」


ちょっと考えてみると簡単に答えを出すことが出来た。誰だと言われても答えられない相手。別にやましいことがあるわけじゃなくて知らないだけ。ただ道を聞かれただけ、ただ商品について質問を受けただけ、ただその姿を悠一郎くんが見ていただけ。何をそんなに気にする必要があるのかな、私にはわからない。悠一郎くんの顔は蛍光灯の下でも何も分からない。質問に対しての答えは未だに見つからなくて私は黙ったまま。


「答えらんねーの?」

「……だって誰だか知らないし」

「この前も名前さんのこと、見てた」

「そうなの?私、初めて話したよ」

「笑顔だったのに?」

「笑顔じゃいけないの?」

「ダメ」

「どうして?」

「…………」

「ねえ、教えてよ」


悠一郎くんは黙りこくる。私も黙りこくる。だって何も教えてくれない。パッと私の手が悠一郎くんの手から放されて、急に寒くなる。止まっていた血液が流れ込んだはずなのに、私の手は急激に冷たくなって、それはきっと冷気のせいじゃなくて、悠一郎くんが私の手を放したからだって簡単に気付いてしまったからで、どっちが子どもなんだか分からない。あ、今、私の方を向いた。くるっと振りかえった悠一郎くんの動きは俊敏で、一瞬何が起こったのかが分からないほど。悠一郎くんはまるであの暑い夏の日の野球場にいた時みたいに真剣な目をしていて、一瞬呼吸をするのを忘れた。


「名前、」


悠一郎くんの口がゆっくり、優しく私の名前を作り出す。ずくん、と胸が疼いて、ただ名前を呼ばれただけなのに顔が熱くなる。ごつごつした手が私の頬に触れた。傷だらけで肉刺だらけで綺麗な手、離れてほしくなくて私はその手に自分の手を重ねる。大きな手、私の手じゃ包みこめない。


「オレ、やだ」

「……何が?」

「こんな子どもじゃやだ」

「……どうして?」

「いつまでたっても子ども扱いするだろ」

「…気にしてるの?」

「当たり前!……オレだって名前さんに男として見られてーもん」

「…………」

「でも、こんなんでヤキモチ焼くんだから見られなくてもしょーがねーよな」


離れていこうとする悠一郎くんの手を強く握りしめた。大きな目を更に丸くして私を見る。その手に軽く口付けて頬に持っていくと少しびくついた。その手しか見てなかった私を悠一郎くんがどんな顔で見ているのかは見えない。それでも良い気がした、私の顔も出来れば見ないでほしいから。言えない、そういう風に焼きもちを焼いてくれたことに安心してしまったなんて。悠一郎くんが嫌がる子どもらしいところに安心してしまう。


「名前さん、狙ってんの?」

「え?」

「名前さんのこと、もっと欲しくなンだろ」


悠一郎くんの目はまるで獣みたいだ。私の目をまっすぐ射抜く目、その目にピシリと身体じゅうが固まるのと同時に胸が疼く。知らない、こんな悠一郎くんは知らない。でも、もっと知りたい。声にならない声で私は、いいよ、と呟くと更に悠一郎くんの目が光る、鋭くなる。もっと私を見て、もっと私を求めて、もう、


「名前、オレ、もう止まンねーから」


子どもになんて見れない。




ひよこ豆さま、リクエストありがとうございました!荒んだ心に染み渡るような優しい甘さではないですが、田島はかっこいいです。私が書いた田島がかっこいいかどうかは別にして……。年上嬢感を出せていたら嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。