頭にぐいぐい押し付けられる手は嫌いじゃないしむしろ好きだけど、もう少し女の子扱いしてほしい。我が儘かもしれないし、向こうは無意識なのかもしれないけど、若干傷付いていたりする。言うと気にするから言わないけど。
「何だよ」
「そんな可哀相な人を見るような目で見ないでよ」
「そうかぁ?」
「傷付く」
「わ、悪い」
「怒ってないよ」
怒ってないよ、という言葉は本当。ただ悲しくなるだけ。この前飛鳥ちゃんと遥ちゃんに会ったけど、2人とも私とそんなに変わらない体型だった。身長も、胸も。ずーんと落ち込んだことは簡単に思い出せる。別に誰が悪いわけじゃない。もっと寝れば良かったのかな、もっとカルシウムを摂れば良かったのかな、こういう風に思っても後の祭りで、今更10pや15p伸びるわけじゃないから無駄なんだけど、ね。
「何かあったのか?」
「え?」
「元気ねぇから」
「大丈夫」
「……何かあったら言えよ」
「……じゃあ、」
「ん?」
「私の身長伸ばして」
梓の顔はぽかんと固まった。そりゃそーだ、意味分かんないよね。でも梓は優しいから、こんな意味分かんないお願いにもうんうん唸って応えてくれようとする。そんな梓がすきだけど、優し過ぎて申し訳なくなっちゃうこともしょっちゅう。目の前に座る梓の肩に触れる。いつだったか、投手の中学生で「肩に触るな」ってお母さんに対しても言ってた小説があったけど、梓は嫌がらないんだなぁ。まぁ三橋くんも嫌がりそうにないけど。それが私だから、だったら良いのに。まぁ梓は恥ずかしがり屋さんだから言わないけど。
「ごめん、気にしないで」
「いや、」
「意味分かんないでしょ、本気にしなくて良いから」
ただ、隣にいても梓の腕しか見えなくて、見上げても見えるのは梓の喉仏だけなのがちょっぴり寂しいだけ。もちろん梓の喉仏にどきっとすることもある。飲み物を飲んでるときに上下したりするのはすごく素敵、……変態みたいだけど。でも梓は私の旋毛しか見えてないのかな、とか、一々屈むのはめんどくさくないのかな、とか。一々屈んでくれるのはすごく嬉しいけど。
「気にしてんのか?」
「…………」
「おら」
「えぇ!?」
「これで高いだろ」
「ちょ、え、こ、怖い!」
「そうかぁ?」
「し、しかも重いでしょ?お、おろして!」
「全然重くねーよ」
「……え?」
「それに、名前のこと落としたりしねーし」
浮遊感。梓の顔は私の目線より随分下にあって、なんだか変な感じ。上から見ると梓ってこういう顔、してるんだ。いつも見上げたところにあるから新発見。梓のがっしりした手が私のブラのところにある。熱い、触れてるところが熱い。梓は器用に私を持ち上げたまま私から目を逸らす。私の顔もどんどん熱くなる。全然重くない?落としたりしない?どきどきする胸。嬉しい、嬉しい。でも悪いから梓の腕をぱしぱし叩いておろしてもらう。ブラのあたりに梓の手の感触が残っていて、なんだか変な感じ。抱っこしてもらうなんて久しぶり。おろしてもらった瞬間、梓の顔がいつも通りの高さの位置にあって、なんだか安心する。
「やっぱお前、その位置がいい」
「え?」
「名前がでかいとか落ち着かねーし」
「……ん」
「あ、いやとかじゃなくて、」
「分かってる。私も今梓の顔がその位置にあって安心したし」
「……おう」
「でもね、やってみたいことがあるの。屈んで」
「え?」
「良いから!」
梓はちょっと腰を屈めて私に目線を合わせてくれる。怪訝そうな顔、でも私の言うことを聞いてくれる。優しい優しい梓。そんな梓の口の端に触れるだけのキスをする。唇はちょっと恥ずかしいから。一回やってみたかったんだよね、梓と目線合わせてキスすること。でも、梓はすごい勢いで私から離れていく。机ががたがた嫌な音をたてた。梓の顔は真っ赤で、私がキスしたところに手を当てて呆然自失?みたいな感じで私を見てくる。え、私、何か悪いことしたっけ?
「お、おま、え!」
「……駄目?」
「駄目、じゃ、ねーけど……」
「じゃあ、何?」
「………あーもう!」
梓はつかつかやってきて私を抱きしめる。すっぽり包まれる私、すっぽり包む梓。肺いっぱいに梓の匂い。安心する。私を包みこむように抱きしめるから私は全く身動きが取れない。苦しい、って言ったら苦しいけど、この全部包まれてる感が良い。これだけで幸せになれる。両肩に梓の腕の重さがかかって、腰のあたりで梓の手が交差して、私の網膜に映った情報は梓の白いシャツしか映してないのに、梓が今何をしてるのかを身体で感じられるのってすごい、なんて自分に感動してみたり。私の頭は梓の心臓の辺りにあって、どくどく聞こえる鼓動音にまた感動。梓も生きてるんだ、なんて当たり前のことを考えてみたり。しかも少しだけ、スピードが速い気がする。私を抱きしめてるから?だったら嬉しいなぁ、湧き出る笑いが止められなくて、声を出して笑っちゃう。
「な、何だよ」
「何でもないよ」
「じゃあ笑うなよ」
「えぇ?何で?」
「…………」
「教えてよ、梓」
「……どきどき、すんだろ」
ぎゅうっと強くなった梓の腕の力、潰されたらどうしよう?それもまた良いかも、いや良くないか。梓に抱きしめられるのは、ううん、包み込まれるのはだいすきだけど、潰されちゃったらそれっきりだし。どきどき、してるのは私も一緒。だから私も腕を梓に回してすりすりする。
「擽ってぇ」
「ふふ」
「……お前、やっぱりちっさいままでいろよ」
「何で?」
「………その方が可愛いから」
そう言って梓はぐいぐい私の頭に手を押し付けた。梓の言葉だけで悩みが吹き飛ぶ私ってどれだけ単純なの?でもまぁ、それは梓が言ってくれたからだよね。その手もその言葉も梓のものだから、梓が私に与えてくれるものだから、私はそれだけで満足です、って言ったら梓は顔を真っ赤にするんだろうなぁ。
りいこさま、リクエストありがとうございました!ドチビヒロインと花井のほんわかした話、いかがでしたでしょうか?梓が可愛いといいなぁという思いをぎゅうぎゅう詰め込みました。○○差って無条件に萌えますよね。これからもよろしくお願いいたします。