きゅっと私の手を包む手の力が強くなったことが嬉しい。顔がゆるゆると緩んでいくのを抑えることは難しくて、私とつながっている手とは逆の手で頭を小突かれる。それさえも嬉しくて、今度は私から強く手を握り返す。
「何?」
「何でもないよ」
「……いきなり手を強く握ったりするから」
「リーマスだってそうでしょ」
「それは名前が転びそうになったからだよ」
「私は転んだりなんかしないよ」
「名前は嘘つきだね、この前廊下で思いっきり転んでたくせに」
「み、見てたの!?」
「後ろからばっちりね」
かあっと頬が熱くなる、まさか見られてたなんて思わなかった。記憶に新しい出来事、今でも私の膝にはあの時の傷が残ってる。魔法薬って即効性がありすぎて使うのが怖いと思ってるから、私はいつも自然治癒にしてる。骨折とか火傷とかそういうのは流石に魔法薬に頼るけど。ていうか、"後ろからばっちり"って、下着とか下着とか下着とかが見えたってこと?……最悪。さらにかあっと顔が熱くなる。
「顔、赤いけど」
「……知ってる」
「何かあった?」
「…リーマスって本当に意地悪」
「僕、よく優しいって言われるけど」
「それも事実だね」
「やっぱり?」
「……嫌味、言ったつもりなんだけど」
「気付かなかった」
「…………」
「そういえば名前、怪我してなかった?」
「……気付いてたの?」
「あそこまで激しく転べば怪我くらいすると思うけど」
「…………」
「今日はあんまり喋らないんだね」
リーマスは私を少し上から見下ろしながら「いつもの名前らしくないな」と言う。その顔にはにやりとした笑い付き。はいはい、さっき少し焦ってたから、今日は口で勝てるかなとか甘いことを考えた私が間違ってました。リーマスに口で勝てた試しがないのに。なんだか悔しくなって俯く。ときどき思うけど、リーマスって私のことを女の子扱いしてない気がする。ブラックくんにそう言ってみたりもするけど、「あいつが自分から関わってる女なんて少ないんだから、その時点で女の子扱いしてるってことだろ」って一蹴されてしまった。そう言ってしまえばそうなのかもしれないけど、私には全然感じられない、リーマスにとって私って何なのかなって何度考えたんだろう。
「今、何考えてるの?」
「え?」
「名前が黙りこんだりするのなんて珍しいから」
「そう、思う?」
「だって僕はいつも名前のことを見てるからね」
「………え?」
「だから転んだことも知ってるんだよ」
「その膝にある傷もね」と言いながらリーマスは私の頭に触れる。その手が確かに存在するって証明する重さが嬉しくて、私はそれだけで泣きそうになる。ああもうどうしてリーマスはいつもこういう風に私の気持ちを軽くしてくれるんだろう。私はリーマスの手に触れてきゅっと強く握りしめる。この手の強さが私の思いの強さだとしたら、私の思いの強さが丸ごとリーマスに伝わってるってことだ。そうであればいいのに、私がどれくらいリーマスを思ってるのか伝わればいいのに。
「痛いよ、名前」
「私の思いの強さだから」
「え?」
「リーマスはどれくらい私のことがすき?」
「……何を言ってるのかわからない」
「だからね、私が今思ってたことは、私の握力が私のリーマスへの思いの強さだとしたら、全身全霊でリーマスの手を握り締めるよってことなんだけど」
「……手の骨が粉砕骨折しちゃうね」
「私がどれだけ怪力だと思ってるの?」
「うそだよ。……そうだな、僕だったら名前を怪我させちゃうから握力じゃないと良いな」
「じゃあ何ならいいの?」
「キスの回数とか?」
ゆっくり下りてきたリーマスの唇がぴったり私の唇に重なる。何度も何度も重なる。夕日に照らされて見えたリーマスの顔は少し赤らんでいて、それが夕日のせいなのかリーマスの心情のせいなのかわからないけど、それが心情のせいであってほしいと思うのは普通の乙女心じゃない?私は鏡で見なくても心情のせいで顔が少しどころかかなり赤らんでいると思う。私の手とリーマスの手はしっかりつながったまま離れそうにない、中国だかどこかの故事だか小説だかに出てくるくっついて離れなくなった鳥や枝みたいね、なんて考えてみる。やっぱりキスの回数じゃ安直過ぎてロマンがないかもしれないけど、リーマスの考えなら良いかもしれない。
真悠子さま、リクエストありがとうございました!メールを頂いてからしばらく経ってしまったのですが、シリウス連載は読み終わりましたか?長いくせにとろとろとした2人なのですが、これからも見守ってやってください。さて、学生リーマスでちょっと甘めな話、とのことでしたがいかがでしたでしょうか?ちょっとどころかかなり甘くなってしまった気がするのですが……申し訳ございません。これからもよろしくお願いいたします。