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シリウスは私のことを本当にすきでいてくれるのか、って何度悩んだんだろう?シリウスの横を堂々と歩ける権利を所有してるのにも拘らず、私はそれを大々的に行使しようとしない。それは私が臆病だからだ。

イギリスに来たのはホグワーツに入学するのとほぼ同時だった。日本人の私にとっては、話す英語も使う機器も良く分からないものばかりだった。そんな中で私が良い成績を取れるはずもないし、そもそもアジア人というだけで見下されがちだから、劣等感を抱いてしまったっていうのは自分でも冷静に分析できるし、もし私じゃないとしても「しょうがないよね」と言えると思う。だから、私にはシリウスが遠い存在に思えてならない。隣にいても、触れていても、どこか夢のようで。まるでアリスみたいにいつかは醒めてしまう夢なのかもしれないと思ってしまう。それがシリウスに対して失礼だとも思ってる。告白したのは私からだとしても。

別に告白したのは、シリウスと恋人になりたいからとかそういう明確な目的があるわけじゃない。もちろん、告白した時も今もシリウスのことが異性としてすきだし憧れてもいる。でも、なんていうか思うだけで良かったっていう感じだった、間違いなく。じゃあどうして告白したのかというと、“周りに流されて”が一番正しい答えだと思う。まず発端は親からの手紙だった。「もしかしたら、ホグワーツをやめてもらうかもしれない」という言葉に納得が出来なかった。もう5年生になったんだし、あとたったの2年弱で卒業するんだから最後までホグワーツで学びたいと思った。ただ、親の言う気持ちも理解できた。だって完璧に親の管轄外だし、例のあの人だってどんどん台頭してきてるし。だから、我が儘を言っちゃいけないのかなとも思った。だけどそれに騒ぎたてたのはリリーだった。「最後ならすきな人に告白くらいしなさい、ずっとすきだったんでしょう?」という言葉にメアリも友達も同調して、結果的にシリウスに告白することになってしまった。だって別に恋人になれるとも思わなかったし、シリウスが私のことを知ってるとも思えなかった。(案の定と言っても良いけど、シリウスの第一声は「誰だっけ?」だった。)告白したら日本に帰る、と思ってたから断られても後腐れないとか思ってたのに、返事は何故かOKで日本に帰らなくても良くなった。なんだか上手くいきすぎ、夢みたい、と思い始めたのはこのときからだ。




「名前、まだ?」

「ご、ごめんね。今行くから」

「また魔法薬学のレポートに手こずってるの?手伝いましょうか?」

「う、……ううん、自分でやる。ありがとう、リリー」

「良いのよ、すぐ“お願い!”っていうくらいなら絶対手伝ったりしないと思っただけだから。名前は真面目ね。そういうところ、素敵だと思うわ」

「あ、ありがとう……」


リリーは賛美する言葉も卑下する言葉も臆することなく口に出来るから尊敬する。私は人の顔色を窺ってばかりだから。マダム・ピンスに少し睨まれながら手早く片付けをする。私に課せられた課題は魔法薬学だけじゃない、まだ覚えているものだけで他に2つある。早く寮に戻って手をつけないと提出期限に間に合わなくなってしまう。頭にあるレポートの為の情報を連想していくだけで頭が痛くなる、どんどん学年が上がっていくにつれて課題も増えていくしその難易度は高くなるんだから。まぁ親からの手紙に反抗しただけの努力はしなきゃいけないから、勉強が出来ないなりにも頑張ってはみるんだけど。


「ねえ、名前」

「え?」

「最近、シリウスとは会ってるの?」

「……あんまり会ってないけど、どうして?」

「いえ、その、私の口から言うのもどうかと思うんだけど……他の女の子とよく一緒にいるから」

「……あ、そうなの」

「………え?い、嫌じゃないの?」

「だって、シリウスが私の恋人っていうだけで現実味があまりないじゃない?……嫌じゃない、って言ったら嘘になるけど」


そうなんだ、こんな私がシリウスを拘束する権利もない。だってシリウスは私には手の届かないくらい遠くにいる人に見える。私の告白にOKしてくれた時から夢が始まっているように感じているんだから、そろそろ醒める時なのかもしれない。醒めたくはない夢だけど。シリウスと最近一緒にいないのは事実だ、約束をしていてもなんだかんだでお流れになってしまう。私のレポートが主な理由だ。だけど、シリウスの目も唇も表情も手もキスも生々しく思い出せる。最近会ってなくても、この1年で染み付いてしまったシリウスは簡単に消えそうもないみたいだ。多分、夢から醒めても。


「名前、そっちに行かないで」

「……え?」

「駄目よ、戻りましょう」

「どうして?寮に戻るんでしょ、こっちの方が近道じゃない」

「そうね、でも今日は遠回りしない?」

「駄目。私、レポートがあるから」

「名前!」


どうしてそんなに嫌がるんだろう?どうして前にいたリリーがいつの間にか私の後ろにいて私の手を引っ張ったんだろう?意地になるリリーに納得できないからそのまま手を振り払って歩き出す。私の目に入ったのは見慣れた黒色の髪と、見慣れない栗色の髪だ。ぴたっと足が止まる。普通に考えて、まるで恋人が語り合うかの距離だった。シリウスはこっちに背を向けていて、シリウスの顔は見えない。ただ栗色の髪の女の子の顔ははっきり見える。嬉しくてたまらない、みたいな顔。私もシリウスと一緒にいるときはああいう顔をしてるのかな、あんなに可愛くないと思う。シリウスがハンサムだから、隣にいる女の子も綺麗じゃないと絵にならないのは考えなくても分かる。


「じゃあ噂は違うんですか?」

「……噂?」

「名字さんがシリウスさんの恋人だってこと」

「そんな噂が流れてるのか?」

「はい。まあ私も見たんですけどね、2人が一緒にいるところ。噂が本当だったら、私どころかみんなが名字さんを責めますよね。シリウスさんは人気者だから」

「……何かの間違いじゃないか?」

「え?」

「俺と名字は恋人同士なんかじゃない。だから、あいつには絶対手を出すな」


心臓が止まる。本当に止まる、本来の役割をなくしたかのように。一拍間をおいて、すごい勢いで動きだす。シリウスが、私のとの関係性を否定した。後ろからリリーがやってきて、私の肩に触れる。栗色の女の子がにっこりと嬉しそうに微笑む。私の存在に気付いているみたいだ、これ見よがしにシリウスの腕に触れる。以前は私に回されていた腕に触れる。何故か頭は落ち着いていて、リリーの手を肩から外して握ったまま歩き出す。行先は変えない、グリフィンドールの寮だ。


「あ、名字さん」

「え?」

「ブラックくん、こんにちは」


敢えて彼が嫌いな呼び名で呼ぶ。リリーの手が私の手を強く握りしめる。私は大丈夫だ、私は何の問題もない。ただ私は、悲しいだけ。私を自分の世界に組み込んでくれたシリウスが私との関係性を簡単に否定したことが、悲しいだけ。でもそれを当たり前だと思ってしまう自分もいる。あのシリウスが私と一緒に時間を過ごしてくれただけで、もう満足と言っても良いくらいの思い出が出来たんだから。


「名前、違うんだ」

「何がですか?シリウスさん、嘘ついたんですか?」

「ああ、嘘だ!俺と名前は――」

「何の関係もないよ」

「……名前?」

「ですよね、私もそう思ってましたよ。だって、名字さんとシリウスさんじゃちょっと釣り合わないみたいな?」


明らかに見下された口調、それも受け流すことが出来る。どうでもいい、この女の子にどう言われようと私は傷付いたりなんかしない。私を傷付けられるのは、隣で必死に私の手を握り締めてくれるリリーと、目の前にいるシリウスだけ。それをシリウスは知らないのかもしれない。胸がぽっかり穴をあけたみたいに悲しいのに、涙はちっとも出てこない。


「謝れよ、名前に」

「どうして庇うんですか?何の関係もないのに」

「庇わなくていいよ、ブラックくん。事実だし」

「……は?」

「ブラックくんは人気者だし、私は地味だし。……だから、もし仮に何らかの関係が私とブラックくんにあったとしても、ここで全部断ち切るよ。ただの同じ寮の同学年ってだけになるから、安心して」


にっこり微笑んで私はリリーの手を引いて歩き出す。私はアリスみたいに、醒めたら何の意味も成さない夢をずっと長い間見ていただけ。私は、普通に戻る。夢を見る前の生活に戻るだけ。でも困ったことに、ただの夢ならいつかは忘れてしまうのに、シリウスの生々しい感触がいつまでたっても忘れられそうにない。忘れたいのに、忘れたくない。私はリリーの手を強く握りしめた。




結城さま、リクエストありがとうございました!今回も参加していただけるなんてとても嬉しかったです。シリウスと同級生で日本人なヒロインが5年生に告白しやっと付き合えるようになったものの寮に戻る途中女子と一緒にいるシリウスがヒロインを守ろうと付き合うわけがない、などと言っている場面に出くわしショックを受け別れを告げるというもの、とのことでしたがいかがでしたでしょうか?ご希望にお応え出来ていると嬉しいのですが……。これからもよろしくお願いいたします。