日曜日の朝が好き。いつもよりちょっとだけ遅く起きてくるシリウスの顔を覗き込めるから。眠ってるときは若干寄せられた眉間の皺と緩んだ唇が少しだけ、ううんかなりセクシー。でもきっと私だけじゃないはず、誰だって見たらそう思う。……誰にも見せたくないけど!1人で寝るには少し大きくて、2人で寝るには少し狭いベッドでシリウスに抱きしめられながら寝るのが、土曜日の夜の恒例行事。最初は恥ずかしくて仕方がなかったこの行為も今では無いとものすごく不安で、土曜日の夜になるのが待ち遠しいくらい。ああ幸せだなーなんて実感するのです、これが。
ただ、シリウスは少し我が儘。私が1人で起きても私が1寝てても不機嫌になる。起きたら「俺を放置するな」、寝てたら「飯はどうした」、簡単に想像出来る理不尽さに笑えてくる。最初は苛々したのにね、今では全然気にしない。シリウスだったらそんな我が儘も"可愛い"の一言で片付けてしまう私はそうとうおめでたいはず。小さな声に出た笑いに、シリウスが身じろぎする。あ、やっちゃった。怒られちゃうかな、とか心配したけどそれは無用だったらしい。ただ私の顔を更に自分の胸に押し付けてくるだけ。もう、私の低い鼻がこれ以上低くなったらどうしてくれるの?とか目が覚めてもいないシリウスに怒ったふりをしてみるけれど、肺いっぱいに吸い込まれたシリウスの匂いを形成する粒子が嗅上皮に貼りつくって考えただけで、気持ち悪いと思いつつも嬉しいのです。
「……あ?」
「起きた?」
「………何時?」
「9時」
「……起きてたのか」
「さっきね。起こそうかどうしようか迷ってたの」
「…………」
「起きる?」
「……ん」
ゆるゆると私から離れていく体温が寂しいからあえてシリウスに強くしがみつく。最大限に眉間に皺を寄せて、「何だよ」と問いかけてくるシリウスに、「まだ」と答えると不服そうな顔をしてくる。そんな不服そうに歪めてるシリウスの唇にちゅっとリップノイズをたてながらキスをして、今度は私からシリウスの胸板に顔を埋める。ああもうこの匂いが大好きなのです、私。
「何?今日は甘えたい日なわけ?」
「んー……」
「珍しいな、名前のそういう態度」
「んー……」
「何かあったわけ?」
「んー……」
「んーんーばかり言うなよ」
ぐりぐりシリウスの固くて厚い胸板に頭を押し付けると、「くすぐったいからやめろ」なんてシリウスに小突かれる。痛いじゃない、もう。しょうがないからシリウスからもベッドからも離れると、急に寒くなってくる。きっとベッドから離れたせいじゃない、シリウスから離れたせいなんだ、なんて花の乙女みたいなことを考えてみる。シリウスに言ったなら、きっと鼻で一蹴されるんだろうから黙っておきます、私って賢い。
シリウスの家、のはずなのに私のものがいつの間にか多くなったのは私がここをセカンドハウスみたいに扱っているから。何処に何があるかなんてすぐに分かってしまうっていうことにちょっと優越感。他の女に教えちゃだめだよ、なんて鬱陶しい女みたいなことは言わない。私、大人の女だから。薬缶がしゅんしゅん鳴りだしたのを聞いて、ペアマグを取り出す。あれはいつのことだったかな、シリウスがいつになく不機嫌そうな顔をして私にこのマグを入った袋を投げてきたから危うくレパロを唱えるところだった、なんてこれも良い思い出。一回り小さい赤色のマグは私ので、一回り大きい青色のマグは彼の。半分目が覚めてなくても、何処にあるのか分かるコーヒー豆とココアの粉を取り出して、目分量でマグにお湯と一緒に流し込む。これでそれなりの味が出来る私は天才です、そんなことない?
「また朝から……」
「血糖値とか言わないでね」
「言わない。俺には飲めないから関係ないしな」
「やだ、私のことは?心配してくれないの?」
「ココアばっかり飲んでたからって死なない」
「まぁ確かにね」
「そうだろ?」
若干の間が合って、私の腰に手を回しながら青色のマグを手に取ったシリウスはなんだか映画に出てくるスターみたい。ふふふなんて笑いながらシリウスの手を掴んで、コーヒーを取らせないようにしながら私は赤色のマグを手に取って、焦げ茶の甘い匂いの液体を口に含む。甘いんだけど、嫌じゃない。この甘さには慣れてしまった。シリウスの手を片手で撫でまわして、シリウスの手から青色のマグを手に取って、真っ黒の香ばしい匂いの液体を口に含む。コーヒーを飲むのはシリウスだけだから久しぶり。子供じゃありません、別に飲めないわけじゃないから。
「苦い」
「ココアの後に飲んだら苦いに決まってるだろ」
「うー……気持ち悪い」
「……これから他人が飲むのに気持ち悪いとか言うなよ」
「だって苦いよ、これ」
シリウスの手に青色のマグを返して、赤色のマグに残ってる液体を喉に含む。ああ、やっぱりこれがいい。別に子供じゃない、ただ、そう、シリウスが言った通りココアを飲んだ後にコーヒーを飲んだから気持ち悪くなっただけ。アイスクリームを食べてコーヒーを飲むと全然苦くなかったのに。一緒に飲めば良いのかな。試してみよう。シリウスに向き直ると、まっすぐ吸いつくようにシリウスの顔が私の視界にぴったり収まる。むしろ視界にはシリウスの顔しかない。ここでこのまま目を開けたままシリウスの顔を見ているのも悪くないけれど、私は空気が読める女だからそんな野暮な真似はしません、ぱちりと目を閉じる。
「甘い」
低く耳元で響くシリウスの声。散々他人の口を貪った後に言う言葉じゃないと思うんだけど!でも、そんな日常も、そんな日常の中に生きるシリウスとなら私は幸せだと感じるのです、シリウスもそうでしょう?
サキさま、リクエストしていただきありがとうございました!激甘の大人シリウス夢というご要望にお応えできたでしょうか?久々に激甘を書かせていただいたので勝手が分かりませんでしたが、お気に召されたら嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。