×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

カリカリと羊皮紙の上を滑る羽ペンの音とあとは俺の頭にはちっとも響かない本のページをめくる音だけが響く。本を読む振りをやめてちらりと先輩の方を見ればどうやら目の前の課題に集中しているらしく、俺の視線に気付く素振りすら見せない。先輩の課題にさらっと目を通すと、今の俺の知識では理解できそうにない内容のものがずらずらと書かれていて、やっぱり年の差を感じてしまう。なんだか悔しくなって先輩に気付かれないように杖を振ると、狙い通り先輩の羽ペンは俺の手の中に飛び込んできた。にやけた顔を隠そうともせず俺は先輩を見つめる。


「……ブラックくん」

「はい?」

「羽ペンを返してくれる?」

「嫌だって言ったら?」

「…………」


先輩はため息をひとつ吐いて、鞄の中からあまり使い慣れていなさそうな羽ペンを取り出した。また俺は杖を振り先輩から羽ペンを奪う。あーあ、こういうことになるんだからやめておけばいいのに。先輩って案外学習能力がないんじゃないか?さっき年の差を感じたくせに、俺はどうやら矛盾しているらしいけど気にはしない。だって、こういう瞬間は先輩との差を感じなくなるんだから。先輩はガタッと音をたてて立ち上がる。普段は俺が見下ろす立場にいるから、先輩に見下ろされるとなると何処となく感じる違和感を無視できない。


「ちょっと!」

「しーっ、ですよ。ここは図書館」

「……っ!」

「ほら、マダム・ピンスがこっちを睨んでる。先輩が大きな声を出すから」

「……ブラックくんって人を怒らせるのが得意でしょ」

「そんなこと、先輩以外に言われたことがないんですけど」


多分、俺の今の顔は腹立たしいと感じられるんじゃないかなーと思いつつも直す気は全くない。そのまま先輩を見つめ続けると、ため息をついて椅子に改めて座りなおした。「か、え、し、て」と一音一音先輩は俺に向かって小さな声で命令する。何だよ、俺。さっきまで課題に向けられていた先輩の目線を今は独り占め出来ているっていうのに、たかが先輩に見られているだけで、こんなか細い声で命令されたのは今まで俺だけだろうとか何の確証もないことを思うだけで、何で俺がこんなにどきどきしなくちゃいけないんだよ。先輩の羽ペンも、自分でも分かる位熱くなって赤くなった顔を隠す。「あ、ちょっと!」ってまた俺に向かって囁かないでくれ。また顔が熱くなる、先輩の囁くような声って、こんな感じなんだ。もし、いつか、確証のない未来を想像すれば、いつか2人きりでこんな風に囁かれる日が来たりするのだろうか?もしそうならば、俺は今のように彼女を"先輩"などとは呼ばず、"名前"という固有名詞で呼ぶことが可能になるのだろうか。「名前、」と出来る限り小さな声で呟いてみる、ああ、駄目だ、これだけで顔が熱くなる。


「何?」

「え?」

「え、だって今呼んだでしょう?」

「…………」

「もしかしてお呼びでない?」

「……名前」

「何?」

「……嫌じゃないのか」

「どうして?」

「…………」

「何?今日、なんか変だよ」


「いつもは私の邪魔なんかしないでしょう」とどこか大人びた表情をする先輩を見ていられなくなった。たかが呼び名を変えただけで俺はこんなに緊張するのに、先輩にとっては大したことでも何でもないんだ。それが悔しい。ああ、阿呆らしい。どうでもよくなってテーブルの上に先輩の羽ペンを2本とも転がす。全く、俺はこどもか?いや、こどもだってことは先輩に対する態度からしても簡単に割り出せることなんだけど。


「ブラックくん?」

「…………」

「どうかしたの?」


返事が出来ない、俺、本当に邪魔しかしてないな。「本、片付けてくる」とそれだけやっと告げて、重くなった空気を振り払いながら俺は席を立つ。本当にどうかしてる、今日の俺は。全然読み進めてない本を出来るだけさっき座っていた席から離れたところに片付けて、それも出来るだけゆっくりと。こんな小さなことでこんなに動揺するなんて馬鹿げてる、俺が年下だってことは最初から分かっていたことじゃないか。


「ブラックくん」

「えっ?」

「しーっ、だよ?」


「図書館で大きな声を出しちゃいけないんでしょ?」と悪戯に微笑む先輩が俺の背後に立っていた。し、心臓が止まるかと思った。先輩に声を掛けられたときに一瞬心臓が止まり、その間を取り戻すかのように速いスピードで心臓が動きだした。どくどくとまるで耳で心臓が動いているかのように拍動の感触が大きい。


「な、何で……」

「ブラックくんの様子がおかしかったから」

「……びっくりした」

「私もブラックくんがらしくなくてびっくり」

「…………」

「でもね、そんなブラックくんもいいと思うんだ」

「……え?」

「ブラックくんって、いっつも私のところに来るくせに勉強の邪魔はしないでしょ?それが逆に緊張しちゃって嫌だった。でも、今日みたいに話しかけてくれると嬉しいな」

「……っ!」

「ね?お願い、シリウスくん」




りまさま、リクエストありがとうございました!先輩ヒロインと図書室で勉強する話、とのことでしたがいかがでしたでしょうか?ご期待に沿えたら嬉しいです。暖かいお言葉もありがとうございます!りまさまもお体には気をつけてくださいね。これからもよろしくお願いいたします。