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ピーピーと携帯電話のアラームが鳴る。最初の頃は結構耳に痛いくらいだったのに、今の私にとっては結構心地いい音でもあるんだ。だってこの音がすれば、あの人がそろそろ帰ってくる頃だから。最初の頃は30分、ううん、10分でさえ経つのが遅くて遅くてしょうがなくって、早く、出来るだけ早く帰ってきて、と祈っていた。だって私1人に対してこの部屋は大きすぎる。いつか出来る家族のために、なんて気が早すぎるくらい大きなことを言って、ちょっと奮発してちょっと大きめな部屋を借りた。そんな言葉に恥ずかしい、馬鹿じゃないの、と言うと共に、嬉しくもあるんだ。私とそこまで永く一緒に居てくれると保証してくれたみたいで。思わず顔がにやけて、手元にあったクッションをばしばしと叩く。思いだしちゃった、思いだしちゃった、あのときの顔。転がりたくなるくらいどきどきする。ベッドにダイブしたくなるくらいだ。興奮が収まらない。思わず立ち上がってスキップをする。今会えるなら、何を言おうかな。ピンポーンと間抜けなインターフォンが響いて、私の気分が害された。これで宅急便とかだったら、私は怒る。絶対に。明らかに自分でも分かるほど気落ちした声で返事をする。こんな声を聞かれたら少しは気を悪くするかな?ああ、もう考えることが全部直結しちゃうな。自分でもわかるくらい私の考えることはそればかり。ごめんね、宅急便だか誰だかわからないけれど、私は早く会いたいの。早く抱きつきたいの。それでね、


「ただいま」


おかえりって言いたいの。インターフォンが鳴ったはずなのに、玄関にはもう来客がいて、ううん、来客じゃないけど、ドアを私があける必要はなかったみたい。それもそうだね、だってこの家の鍵を持ってるんだから。今までインターフォンなんか鳴らしたことがないくせに、何をしてるの?どきどきしちゃったじゃない、なんて言えなくて、ぐしゃっと頭をいつも通り撫でてくるその手の持ち主の胸に飛び込む。私としてはとびきり甘えた、普段の私だったら絶対に出さない位優しい声でおかえりと呟くと、もう一度私に「ただいま」と囁いた。いつも通りの時間、いつも通りの言葉、それなのに今日はとびきり愛おしい。どうしてかな?どうしてだろうね。私としてはその答えは分かっているんだけど。まだ言わなくていいかな、でも早く伝えたいな。リリーにはもう伝えてある。でも、そのことを言えば、どうして一番に教えないんだって怒ったりするかな?ごめんね、でもリリーは私に一番に教えてくれたから私も一番に教える約束をしたの。ふふふっと笑うと「何だよ」ってすこし不機嫌そうな声がする。そろそろ顔をあげても不機嫌そうな顔はどこにも見当たらなくて、むしろ私を優しく見つめてくれる灰色の目がある。そのことに私はどうしようもない安堵感を得られるんだからすごい。私はそういうことを逆に与えられているかな?安堵感、安心感、エトセトラ。ただ抱きしめられるだけでこんなに幸せになれる私はどれだけ単純なんだろう。笑われちゃうかな?それでもいいや。だって、私は幸せだもの。もう1つ、得られたものがある。それだけで。


「どうした?今日は一段と機嫌が良いな」


私は曖昧に微笑んで、手をひく。不思議そうな顔を無視してそのままリビングに向かって、私としても一段と気合が入った夕食が並べられている。全部作ったんだからね、褒めてよね、と少し胸を張って伝えるとまたぐしゃっと頭を撫でられる。この感触は嫌いじゃない、けど、子ども扱いされてるみたいで少し不服。その顔を隠すことが出来なかったらしくて、笑いながら今度は膨らんだ頬を長い指で潰される。もう、何なの?と呟くとより一層笑われて、気に食わない。


「悪い悪い。で?今日は良いことがあったんだろ?そうでもなきゃこんなに豪勢な夕飯にはならないよな。もしかしてリリーか?」


良い線いってる、でも外れ。ふふんと微笑むと少し不満そうな顔をされる。やりすぎたかな?でも、当ててほしいんだよね。結構難しいけど。………案外子どもっぽい、そう気付いたのは結構前で、その頃から少しからかうのを自重し始めた。これ以上機嫌が悪くなるのはいやだな、折角私は幸せなのに。あのね、と呟くとすぐさま「どうした?」と聞いてくる興味津々な顔に笑みを隠せない。


「シリウスは喜んでくれる?」

「何を?」

「もし、もし、ね?」

「ああ」

「シリウスとの子どもが出来たって言ったら」


ああ、そんな嬉しそうな顔、見たことがない。この2人には少し広すぎる家も、これから少しずつせまくなっていくのかな?それをずっと一緒に見れたらいい、永いと感じるほど永いときが短いと感じるほど短いときになればいい。その中でそんな、ううん、それ以上の嬉しそうな顔を見せてくれれば、私はその都度幸せの限界点を更新出来るの。




伊江侑紀さま、リクエストありがとうございました!現パロ・新婚さん、とのことでしたが、勝手に妊娠ネタを組み込んでしまい申し訳ございません……!新婚さん、新婚さん、と考えているうちに妊娠してしまいました……。現パロはものすごく好きなので、このようなリクエストをいただけてとても嬉しかったです。これからもよろしくお願いいたします。