その先の領域


マンガやドラマでは幼馴染が恋愛に発展する、なんてよくある。
でもあたしたちの間ではそれは成立しない。
生物学的には男と女でも、意識しなければただのひとりの人間なわけで。
そんなロマンス、夢のまた夢のそのまた夢くらい。
それでも周りにはまだ付き合わないのかと疑問視されることもある。

そんなに恋人同士にならないといけないのか。
否、そんな感情向けたことなかったし、向かってきたこともない。

あたしたちはずっとこのままだと思う。
でもそれが結局1番いいことだ。

例えば恋愛に発展して、破局したらこの雰囲気に戻れるのかと言われれば、完全に戻れる保証などどこにもない。

あたしはただ臆病なのかもしれないけど、それでもよかった。

幸い、あたしのそういう相手は色恋沙汰には興味を示さないし、顔も特別よくなければお世辞にも優しいとは言えない。
よくケンカにもなるし、そのときの顔なんて不貞腐れて不機嫌丸出しで、目も眉も吊り上げて口をへの字にしたり歯茎を剥き出しにしたり。
どこにも恋愛要素なんてない男である。
それでも離れる、という選択肢は毛頭ないのもおかしな話だった。

ただ変わらないのは幼馴染という事実だけ。

「んでおめーも箱学受けてんだ、バァカ名前」

「たまたま進路が同じだけでしょ。別に真似しようと思ったわけじゃないよ、靖友」

お互いに横浜から箱学に入学したので、寮生活になった。

この頃の靖友は野球で挫折を味わって、見た目から不貞腐れてるような奴だった。

それもほんのちょっとの間だけで、すぐに打ち込めるものを見つけたらしい。

東堂くんや新開くんほどではないが、気付けば隠れファンみたいなものもできていた。




▼▼▼

幼馴染、といえば聞こえがいいが、そんないいモンじゃねェ。
しかも中身はともかく、見てくれはいい方の部類に入る女なので、オレとつるんでいるときは羨望の眼差しに混じって狂気に似た視線だって感じたことがある。
精々見てくれに騙されてりゃいい、ボケナス共。

名前はオレがどんな腐ったヤツになろうと、態度を変えたりしない女だった。
オレが髪型を変えようが、野球を辞めようが気にする様子もなく、通常運転でいてくれたことだけはありがたかった。
だからオレはコイツから離れる、というのは頭にこれっぽっちもねェ。

ただ、幼馴染、と呼ぶにはちょっとキレイすぎて、腐れ縁と呼んでいる。

その腐れ縁は高校でも腐れ縁だっただけだ。

そう思っていたところに、隕石が落ちてきたのは東堂のせいだ。

「荒北、おまえの幼馴染の苗字名前さん。付き合っているのか?」

もう何十回もされたその質問にゲンナリしながら、付き合ってねぇヨと返した。

「ふむ…では荒北、1つ頼まれてはくれまいか」

「ハァ?何をだよ」

「苗字さんをオレに紹介してほしいのだが」

オレはジャージから制服に着替え、最後に靴を履こうとした手が止まった。

今、コイツはなんつったんだ?

オレは靴から視線を上げて東堂を見る。
東堂は、視線をさ迷わせながら、いつもの自信たっぷりな姿が半減していて、初めて見る東堂だった。

「……なんでだヨ」

オレは再び靴に視線を戻す。

「まあ隠す必要もあるまい。それはだな、彼女を好いてしまったからだ」

そう言った東堂は間違いなくいつもの東堂で、オレに向かって指をさしていた。

「……いやだネ」

「何!?やはり荒北、おまえも苗字さんが好きだったのか!?」

「そうじゃねェ!」

……と思う。

「めんとくせーんだヨ。自分から話しかけりゃいいじゃねぇか」

これは本心。

「会話をしたことがないのだから荒北がいた方が彼女も話しやすかろう?」

つか話したこともねぇのかよ。
どこに惚れる要素があったんだ。

「やっぱり荒北は彼女に惚れているのか?」

「……バッカじゃねーのォ?」

そんな風に思ったこと一度たりともねェわ。

「つーか、そーゆー相手なら自分のファンの中から選べば簡単なんじゃねぇか。腐るほどいんだろ」

「仕方あるまい、その中に苗字さんはいないのだから」

一応、そーゆー相手は妥協しないで選んでんのか、コイツも。




▼▼▼

靖友から話があると言われたのは今日の朝だった。
改めて話というのはなんだろう。
そんなこと今までなかった。

昼休みに時間をあけて、靖友に指定された場所に行くと、そこにいたのは靖友だけじゃなかった。
…何これ。

2人の人物を目にすると、まだ距離があるというのに足が止まる。

そこにゆっくり向かうと、モテ男である東堂くん…だったかな、そんな人が靖友といた。

「何??靖友」

「苗字さん、オレは東堂尽八だ。よろしく」

「え?あ、うん。…知ってるけど…」

2人の意図が未だにさっぱりわからなかった。



▼▼▼

東堂はオレが口を開く前に、名前に自己紹介し始めた。

んだヨ、オレ必要ないじゃナァイ!?

東堂は名前の手を取って勝手に握手をしていた。

「あとは勝手にやってればァ?」

オレはいなくてもいいと判断して教室に向かうことにした。

「えっ、ちょっとなんなの?靖友!?」

「苗字さん、突然だがオレと付き合ってはくれないか?」

オレは東堂の言葉に勢いよく振り返った。
だってそうだろ!?
今初めて会話したっつーのに、もうコクってりゃ驚きもするってモンだ。

「え?と、東堂くん?」

「オレと付き合ってはくれないか!」

「ま、待って待って」

名前が東堂の押しにたじろいでいる。
ま、それだけコイツがうぜぇってことなんだが。

「東堂くんが…あたしと?どうして?」

「苗字さんが好きだからだ。それ以外の理由はあるまい」

名前は東堂のことをポカンとアホ面で見ていたが、たぶんオレも同じような顔をしているだろう。

「えーっと……ごめんね?あたし、東堂くんのファンに殺されたくない」

名前は戸惑いながらも東堂の告白を断っている。

初めて男が名前にコクっている現場を見ているわけだが、そういや、コイツが誰かと付き合うことになったら、オレは名前から離れねぇといけねーんだよな。
オレにできんのか。
今はわかんねぇや。
今までだってコクられてんのを知ってはいるが、いつだって名前は断ってたかんな。

「じゃあこうしよう、東堂くんがファン全員を一掃したら付き合うってこと」

名前の提案にオレはすぐムリだと確信した。
なんせ女子大好き、ファンサービスするために生きているようなコイツにできるわけがねェ。

「ワッハッハ!!約束だ、苗字さん」

東堂は名前を指さして自信満々に戻っていった。
オレはため息をついて頭を掻きながら名前に近づく。

「意外、靖友がこんなことに手を貸すなんて。自分の恋愛も他人の恋愛も興味ないと思ってたのに」

「いい加減おめーと付き合ってるかって聞かれんの面倒だからなァ。他のヤツと付き合えばンなこと言ってくるヤツいなくなんじゃねーかと思っただけだ」

「あー…そういうこと。通りでおかしいと思った。……ねぇ、東堂くん、できると思う?」

「できねぇだろ。1人の女より、多勢の女とんじゃねェ?」

「ははは、じゃあ東堂くんとは付き合えないなぁ。…でもさ、あたしと東堂くん、付き合ったら靖友どうすんの?」

「あ?オレェ?……しゃーねぇから祝ってやんヨ」

「……あっそ」

離れるつもりがなくても、実際はオレから離れていく日がいつかは来る。
そんなことはわかってんヨ。
好きでもねぇのにそう思うのは、やっぱ腐れ縁のせい、か。




▼▼▼

あたしはあたしで問題事項を抱えていた。
靖友にジワジワ人気が出てきているのは知っている。
あたしはその子たちに囲まれていた。
靖友のファンは、意外と大人しい子の方が多くて、大変な暴力沙汰とかにはならないんだけど。
それでもやっぱり大人しい子たちばかりじゃないから、1人2人には手を出されたりはするわけで。
これが東堂くんや新開くんのファンだったらもっと過激なんだろうか、と考えるとファンというのは恐ろしい。
靖友のファンにも囲まれ、東堂くんと付き合って彼のファンにも囲まれたらあたしは生きていけないわ。

靖友と付き合ってないことを知ると、もう少し離れてほしいとお願いされた。
そんなにべったりのつもりは全くないのだけど、まあ離れるつもりもないので、それを正直に伝えた。
どうしてあたしがそんなどうしようもないお願いを聞かなきゃならないのか。

靖友のファンから遠ざかると、タイムリーなことに靖友に会った。

「髪ボッサボサじゃねーか。何してたんだヨ」

「別に何もしてないよ」

あたしは髪を手櫛でちゃちゃっと整える。

あたしが何かを隠しているのがわかるのか、靖友の見透かすような目とあたしの目が重なる。

すると靖友はあたしの肩を押し退けてファンの子たちがいる方にズンズン歩いていく。

あ、ヤバイと思って靖友を追いかけると、あたしが追い付く前に彼の怒声が聞こえた。

「てめーら、次コイツにキズつけたらぶっ飛ばしてやんヨ!!てめーらに応援されてもメーワクだ!消えろボケナス!」

…あーあ…言っちゃったよ…。

靖友のファンたちはひどく怖いものを見るような顔して、震え上がって逃げていった。

でも、あんなカッコいいこと言えるんじゃん。
靖友のくせに。

「靖友、言いすぎだよ。あたし大丈夫なのに。靖友のファンいなくなっちゃうよ?」

「ハ!そんなモンいらねーよ!ジャマだからァ」

恋愛感情なんかなくたって、靖友はいつだってあたしの味方で守ってくれて、あたしはそんな靖友の傍にいたいだけなんだ。
だからあのときも…挫折をした靖友でも根は変わってないと思ったから離れなかったんだ。





▼▼▼

ファン一掃の約束を名前としてからの東堂は、まるで人が変わったようだった。
その姿にオレはもちろん、福チャンも新開もあんぐりしていた。
静かになっていいことだが、マジでアイツとの約束を守るつもりなのか。
そんなに名前に惚れてんのか。
ぜってー果たせない約束だと思っていたのに、徐々に東堂の態度が変わっていた。

「靖友、尽八のやつ何かあったのか?」

「チッ…知らねェ」

オレの中にこれまでにない焦燥感が渦巻いていた。

「キャー!東堂様ぁ!」

「いつもの指さすやつやってー!」

いつもの東堂ならここで喜んでやっていたはずだ。
そんな東堂が走りに集中していてまるで無視だ。
沿道にいた女たちからは落胆した声がする。
それを続けているうちに、ポツポツと東堂のファンが減っていくのが目に見えていた。
それでもここまでくるのに1ヶ月かかっていた。

「東堂ォ、そこまでしてアイツと付き合う意味あんのかよ。言っとくが、名前はそんなできたタマじゃねーぜ」

外周から戻ったあと、オレは休憩しながら東堂に話しかけた。

「それでもよいのだよ。オレが選んだ女性なのだから」

「チッ、好きにしろヨ。その代わりーーーーー」




▼▼▼

「……え?」

あたしが聞かされたのは東堂くんがファンを一掃したということだ。
それはあの衝撃的な告白から3ヶ月は経っているのだけど。

靖友も少し後ろの方で壁に寄りかかりながら、あたしと東堂くんの方を見ていた。

「約束だ、苗字さん。オレと付き合ってくれ」

東堂くんはあたしの前に握手を交わすように右手を出してきた。

「本当に一掃したの?いっぱいファンがいたのに大変だったでしょ」

「ああ、おかげで3ヶ月以上かかってしまったがな。ワッハッハー!」

東堂くんは約束を守ってくれた。
あたしに断る理由はない。
というか、ここまでしてくれた東堂くんを振ることはできない。

「よ…よろしくお願いします」

あたしはゆっくり東堂くんの手を握ると、東堂くんはさらに力を入れて握り返してきた。

「ああ!」

笑う東堂くんはとても嬉しそうだった。
靖友はなにも口をはさまず、それを見ているだけだった。



▼▼▼

名前と付き合い始めた日の部活、東堂は目に見えて絶好調だった。
さっそく名前がかわいいだの今日は一緒に帰るのに待っててくれてるなど、ぎゃあぎゃあうるさかった。
オレはコイツの反動をもらったように、不調だった。

「東堂うっせぞォ!集中できねーよ!」

オレの不調は東堂のせいだと決めつけて、ペダルを回し続けた。

部活を終えたオレたちは東堂が一目散に部室を出ていくのを見た。
そのあと続いて出ると、名前がいて東堂と話していた。
名前はオレたちを見ると、軽くお辞儀をして東堂と帰っていった。

それを見て、名前が東堂と付き合い始めたんだということを受け入れた。

いつもアイツの隣はオレだった。
それが東堂になった。
オレとアイツが離れる日がきたのかもしれねェ。

「いいのか、靖友」

「あ゛?何が」

「苗字さんだよ」

「んなのアイツが決めることだろ。オレの口出しすることじゃねェ」




▼▼▼

あたしの隣に東堂くんがいるのが不思議な感覚だった。
今まで靖友がいた場所に東堂くんがいる。
それが最初は新鮮だった。

それが次第に不安に変わってきたのは、東堂くんと付き合ってから1ヵ月くらい経ったときだった。
それは東堂くんのせいじゃない。
それはわかっている。
東堂くんと付き合い初めてから、靖友はあたしとほとんど接触しなくなっていた。
あたしと東堂くんに気をつかってくれてるんだと思う。
それが初めてで不安なんだ。

それでも東堂くんの誠意には応えなきゃいけないと思ってる。

寮からの登校、これも靖友としていたのが今は東堂くんとだ。
東堂くんに不満があるわけじゃない。
イケメンで、紳士的で言うことない人だ。





▼▼▼

「荒北、苗字さんが何か変なのだが知らないか?」

「…ハァ?オレは知らねーな。だいたいテメェの方が一緒にいんだろーが」

オレは名前と会うことも口をきくことも以前よりかなり少なくなっていた。

「精々フラれねぇようにするこったな」

オレがそう言うと、このイケメンがフラれるわけがなかろう!と後ろから叫ばれた。

ジャージを着て部室を出ると、そこに名前がいた。

「何してんだヨ。まだ部活終わってねぇぞ。東堂待ってんだろォ?」

「あ、うん。そのことなんだけど今日は先に帰るって伝えたくて」

「ハッ、呼んできてやっからちょっと待ってろ」

確かに何かが変だった。
コイツと東堂の間で何があるのかは知らねぇが。
アイツがオレの言ったことを守るようなら口出しはしねぇと決めてる。

「あっ待って!靖友から東堂くんに伝えといて」

「ハァ?」

オレが部室に戻ろうとすると、名前がそう言うので振り返ると、じゃ!と走って行ってしまった。

「自分で言えよ、ボケナス」

いい逃げのように去っていく名前の代わりに、東堂にそれを伝えるために頭を掻きながら部室に戻った。

名前が言った通りそのまま東堂に伝えると、それでは仕方ないと納得していた。


それから数日後だ。
部活が終わって自主練帰りにコンビニに寄って寮に向かう途中、東堂の声が聞こえた。

「何してんだ、東堂ォ」

オレはチャリで東堂に近づくと、コイツの影に隠れていたが、確かに名前がいた。
膝を抱えるようにしてうずくまっている名前が顔を上げると、目からツーと流れる何か。

「え…靖、友?」

オレは立ち上がると、東堂の胸ぐらを掴み上げた。
ぐっと東堂の苦しそうな声がする。

「東堂、オレァあんとき言ったよなァ?名前キズつけたら許さねぇぞってェ!!」

「ちょっ、靖友!」

「おめーは黙ってろ!」

名前はオレの声にぐっと口をつぐんだ。

「おめーが真剣だってわかったから今まで黙ってたけどヨ…コイツ、キズつけんなら話は別だ」

「だから待って、靖友!」

名前がオレの腕を掴んだが、それを払いのけた。

「テメェに名前は渡せねぇヨ」

「荒、北」

「や、靖友のバカぁぁっ!!」

名前がオレの声よりも大声で叫んだ。
オレは名前を見てやっと東堂から手を離した。

「東堂くん、大丈夫!?」

すぐに名前が東堂に寄り添った。

「ごめんね、靖友がバカだから早とちりしちゃって」

「ハァ!!?」

早とちりだァ?
だが、コイツは確かに泣いていた。

「苗字さん、荒北と話ついたらまた話そう」

名前はそれに頷いていた。
名前は東堂が去っていくのを見送ってからオレに向き直る。

「…ホント、あんたってバカ」

「うっせ!」

「…実は、あたしが東堂くんに別れてくれないかって話してたの」

「ハァ?なんで」

「そんなこと別にいいでしょ。…でも東堂くんはあたしのためにファン一掃してくれてたのに申し訳なくて。だから東堂くんは悪くない」

オレが勘違いしてやっちまったっつーことか。
オレは舌打ちしながら頭を思い切り掻いた。

「でもそんなに靖友が怒ってくれるなんて思ってなかったよ」

「……腐れ縁だからなァ」

……ホントは違ェ。
オレは気づいた。
今までこれっぽっちもコイツにそんな感情持ったことねぇのに、どっから湧いて出てきやがったんだ。

「…どうしてあたしが東堂くんと別れようと思ったと思う?」

「あ?そんなモン知るか」

「…なんかさー、違ったんだよね。あたしの隣に東堂くんがいるの」

名前はオレの放り投げたチャリを起こして、オレに渡してきた。

「誰かさんよりも気が利くし、かっこいいし、優しいし。勿体ないくらいの人だった」

「…なら振る必要ねぇじゃねーか」

「でも優しくなくても、かっこよくなくても、口が悪くても、あたしの隣はこいつしかいないなーって。……誰のことかわかる?」

「………シラネ」

もしかして、もしかしてオレのことかもしれねぇが、東堂への盛大な勘違いのあとでオレだと言えるわけがなかった。

「靖友」

「あ?」

「靖友だよ。ホント、これが靖友の言う腐れ縁ってやつかな」

「…ハッ、オレは違ぇぞ」

「何が?」

コイツが誰かと付き合わなけりゃ、おそらくずっと気づかなかった感情だ。
つーかそんな感情ねぇと思ってた。
クソ。
東堂め。

「……おめーが好きなんだけどォ」

「…え??うん、知ってる」

「ハァ!?」

「靖友がわざわざ嫌いな人と一緒にいるわけがないもん」

「あ゛ー…」

オレが事あるごとに腐れ縁だっつってたから悪ィんだけどォ…。

「女として見てるっつーワケェ」

名前は目をでかくしてオレを見た。
それから沈黙のあと笑いだした。

「…てんめ…」

「あははっ、いや、だって靖友がそんなこと言うなんて一生ないと思ってたのに!」

「るっせぇ」

「…でも嬉しい。あたしもそうかもしれないから」

名前がオレにしがみついてきて、オレはその背中をきつく抱き締めた。

「…それよりさ、東堂くんにちゃんと謝りなよ?」

名前はオレの腕の中でムードもへったくれもないことを言う。

「っせ。わかってんヨ」

このムードもへったくれもないのが今はまだオレららしい。
だが、確実に先へ進む。

ただの腐れ縁だと思っていた感情に、いつの間にか実がついていて。
とうの昔から好きという種は蒔かれていたのだと思う。

その後東堂に悪かったと言うと、そんな器の小さい男ではないぞと返され元通りになったが、コイツのファンも同時に元通りだった。


End



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