傍観者


荒北靖友side


名前チャンと3限終了後、部室に向かうと待宮がニヤついた顔でオレらの方を振り返る。
イヤな予感しかしねェ。
もしくはオレが名前チャンと現れたことに対する顔か。
どっちにしろうぜェことには変わりない。

待宮が土曜日の予定の有無を訊いてくる。
それを不審に思っていると、その正体はどうやら部活の新入生歓迎会だったらしい。
気付けば待宮の手が名前チャンの左側にまわっているのが視界に入った。
それはオレが名前チャンの左側にいるからで、待宮の指がピアノでも弾いているかのように彼女の肩の上で器用に動いていた。

ったくコイツ、いつかセクハラで訴えられりゃァいんじゃナァイ?
オメーもオメーだ、んなことされてよくヘラヘラできんじゃねェか。
ざっけんなっつって一発食らわしたってコイツは文句言えねェぞ。そんくらいのことしてんだからァ。

ま、名前チャンが気にしてねーならオレが口出しする義理もねェなと思ったときだった。
待宮の手がそろりそろりと肩から下がっていく。
そこにあンのは………。
女のアレだ。
コイツ……!

オレは咄嗟に待宮の手を摘んで払い除けた。
すると名前チャンは気にしてないと言う。

ア゛ァ!?
テメッ、乳触られそうになったんだぞ!?
気にしてねェってバァカじゃねーの!?
……っつてもコイツはそこまで気付いてねェからしゃーねェけどォ、待宮のニタニタした顔がウッゼ!

目撃したオレと、実行しようとした待宮しか知らねェこと。
裏で行われそうになっていたセクハラに気付いてもねェ名前チャンは、呑気にオレの袖を引っ張りながらオレを新入生歓迎会に行こうと誘ってくる。
まぁコイツが悪ィわけじゃねーし、

「……別にいいけどォ」

そう答えておいた。

待宮がちょいちょいうるせェことを言うせいで流れる微妙な空気の中、後ろの部室のドアが開いて入ってきたのは金城だった。

名前チャンがすぐに金城に駆けて行き、早速新入生歓迎会の話をしている。
オレはそれを目で追った。
それも数秒で待宮に視線を戻し、さっきの待宮の行動を巡ってくだらねェ言い合いをしていると、名前チャンの声で「靖友…?」と聞こえた。
疑問形になっていたことに違和感を覚えると、名前チャンは奥の机で何かしているようだった。
待宮から離れ、後ろからそれを覗き込むとオレと金城の出るレースのオーダー表があった。
大学名と金城の名前、それからオレの名前があったが苗字の部分で止まっていた。
…まさかオレの名前知らねェとかァ?
まあ確かに自ら名乗ったことはねェ。金城も待宮もオレのことは荒北と呼ぶ。
初めてコイツに会ったときも金城がオレの苗字呼んでたな、確か。
名前チャンの金城を見る横顔はマジで知らねェって顔だった。

オレは頭を掻き、軽くため息をついて名前チャンの右手に握られたペンをすんなり奪い取る。
あ、と声を漏らしながら振り返る名前チャンを余所に前屈みになり、キレイな字で書かれた『荒北』の横に名前を書いていると、名前チャンは前に向き直り俯き加減にそれをじっと見ていた。
書き終わって紙の横にペンを置く。

「あ……靖友…」

今度はしっかりした声で名前を呼ばれ、身体の奥がちょっとばかしむず痒くなった。
だがそう呼ぶのはそれっきりで、結局荒北くんに戻っていた。




▼▼▼

日は土曜日になり、その夜新入生歓迎会という名の飲み会が開かれた。
大学近くの居酒屋チェーン店の前でわらわらと部員が集まっていた。
もちろんオレらは未成年で飲むことは許されない。
だからただ先輩たちが飲みたいだけじゃねェの?という疑問が拭えないでいた。
オレは片膝を立てながらベプシ、金城は胡座をかいて烏龍茶を長テーブルの端の方で飲んでいた。
待宮は飲んでんのか知んねェが先輩たちと絡んでいた。
飲んでバレたらアウトだな、アイツ。
そう思いながら目の前で繰り広げられるわちゃわちゃを部外者の如く見ながらベプシのグラスを手に取った。

「つーかこれ新入生歓迎会じゃねェのかヨ」

目の前の光景を指さすようにグラスをくるくる回すと、カランコロンと氷とグラスのぶつかり合う音がした。

「なんだ荒北、ああいうのに混ざりたいのか?」

「んなワケねーだろ。あンなの絡まれてうざってェだけだ」

オレはテーブルに広げられているコース料理の中の唐揚げに手をつけた。

「でェ、アイツは何やってるわけェ?」

今度は唐揚げを挟んだ箸で1人の女をさす。
名前チャンは1人忙しなくあっちへ行ったりこっちへ行ったりいろんなヤツ、主に先輩たちの料理を取ったり酒を注いだり…ったく、どっかのコンパニオンかよ。
アイツも1年じゃねーのォ?歓迎される側だろ?

「まあ女子が1人しかいないから仕方ないんじゃないのか?男よりも女性にお酒を注いでもらいたいものなんだろう」

「…ハ!おめーはそれでいいのかヨ。アイツ、他のヤツにベタベタされてっぞ」

金城は名前チャンをちらりと見たが、特に何も言わなかった。

オレの勘じゃァ金城は名前チャンのこと、好きなんじゃねェかって思ってンだが。
相変わらず読めねェヤツ……。

口の中に入れた唐揚げは思ったよりも味が濃いめだった。



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