雨も、悪くない


朝のニュースで、お姉さんが降水確率は30%って言ってた。それって結局降るの?降らないの?
答えは降っている、だ。
傘を持っていくかどうするかで悩んだ末に、持っていくのをやめた。だってもし降ってもカバンに折りたたみ傘が入ってるし。
靴に履き替えて屋根が途切れるギリギリの場所まで来てからカバンの奥に手を入れる。

………あれ?うそ?

手探りじゃ埒が明かないので、覗き込みながら探すもお目当てのものがない。
入ってるとばかり思ってたからわざわざチェックすらしなかった。

外に手を伸ばすと雨粒が私の制服と掌を濡らした。
それと同時にバサッと傘の開く音。ちゃんと傘持ってきてるんだ、偉いなって思って目線だけ横に流す。

「おやおや、入れて差し上げましょうか?お嬢さん」

「……げっ」

開かれた傘の下で不敵に私を見下ろしていたのは黒尾鉄朗だった。
黒尾とはなんとなく気が合わない。いつも嫌味の言い合いみたいな。何考えてるかわからない掴みどころのない奴。

「お隣どーぞ?」

笑顔なのに何か企んでいるように感じるのは、この笑顔が胡散臭いからなのかも。

「…いらない!」

黒尾が私の方に傘を傾けた瞬間に、それを避けるように雨に向かって走り出す。「あ、オイ!」って黒尾の声がしたけどそのまま走り続けた。

このまま家まで突っ走る、と思ったのに雨は酷くなるばかり。仕方なしにシャッターの閉まったお店の屋根を借りて雨宿りをすることにした。
額に張り付いた前髪を拭って、水分を吸いすぎた制服の裾を搾る。


雨はいつまで経っても弱まることはなくて、濡れた制服にどんどん体温だけが奪われていく。
どうしようかと空を見上げるために少し身を乗り出したとき、私の視界が真っ黒になった。

「素直じゃないネェ、苗字」

「………は?え?くろ、お?……なんで」

「たまたま、だけど?」

ここでもやっぱり胡散臭い笑みを浮かべている黒尾。
真っ黒になった視界の正体は黒尾の持つ傘だった。

たまたま、
黒尾はそう言った。
じゃあ何よ。
その息を切らした肩は。いつもより酷い寝癖みたいな髪は。

「………風邪引いたら黒尾のせいだからねっ」

「なんでだよ!んっとに可愛くない女」

そんなの私が1番わかってる。
別に黒尾につっかかりたいわけじゃない。
ほんとは………

背の高い黒尾に目線だけ上げると傘を持ち替えながらブレザーを脱いでいた。
驚くより先に私の湿った制服の上にかける。黒尾の体温と匂いが私を包んだ。

「ちょっ、何!?」

「俺のせいにされちゃ面倒臭いから黙って着てなさい」

「っ!」

黒尾のブレザーは私のスカートまですっぽり隠す。
こんなに体格差があったなんて。黒尾のくせに。

「なーにしてんの苗字。早く来なさいって」

黒尾の傾けられた傘は左側が空いていて。私の場所だって言われてるみたいでなんとなく躊躇われた。

「何ィ?相合傘だとか気にしてんの〜?」

「っ、そんなわけないし!さっさと帰るよ」

バカにしたように下がる眉が腹立つ。
もう、黒尾といるといろんな感情が次から次へと忙しい。
パシャッと水溜まりを踏み、傘の中で黒尾と並んだ。

「可愛くないうえに素直じゃないネェ」

「…そんなの黒尾に言われたくないし」

「はいぃ?」

だって黒尾の家、私と逆方向じゃん。
なにがたまたま、よ。


お題『雨も、悪くない』



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