上手な甘やかし方


*社会人設定

会社が多忙を極めていた。家に仕事を持ち帰り夜中までパソコンと睨めっこ。
そんな今日は、久々に高校のバレー部の田中たちと会うから夜ご飯は要らないって言われた。
それなら…と、私はカップ麺を啜りながら自室でカタカタカタカタやっていた。



▼▼▼

「………っ!!?」

パソコンと向き合っていたはずなのに、いつの間にかキーボードと頬が一体化していた。
未だに明かりのついた画面にはよく分からない文字列が打ち込まれている。私の重みで勝手に押されたらしい。
終わらない終わらない終わらない。
じんわり滲んだ視界の中、意味不明な文字を消していく。一遍に消せばいいのに、腹立たしさを込めてbackspaceキーを連打した。

そのとき肩から何かが落ちた。それを拾い上げる。

これ、夕の………。

私しかいない静かな部屋をゆっくりと振り返る。

「お!起きたな。飲むか?」

いきなり開いたドアにお風呂上がりだと思われるラフな格好の夕がいた。その手が差し出してきたのは、同棲すると決めたときに一緒に買った色違いのマグカップ。受け取ると、コーヒーが独特な苦味を漂わせていた。

「…あ、ありがとう」

「まだやってんだな?休まねえと身体もたねーぞ!」

私の横から夕がパソコンを覗き込む。しかしすぐに顔をしかめて離れた。

「夕、ごめんね」

「なんだよいきなり。謝ってもらうことなんてなんもないだろ?」

「ご飯も掃除も洗濯も…最近まともに出来てなくて……」

夕が肩にかけていたタオルを握り締めながら息を吐いた。

「…俺は家事してほしくてお前と住んでるんじゃねえ。自分で出来ることは自分でやる…だから!」

いやまあ出来ることは少ねえけど……とバツが悪そうに言いながら、ストンと私と背中合わせに座った。そして夕の方に身体を引かれる。

「こうやって安心して寄りかかれ!名前には俺がいるんだからな!」

私はまだ、あの頃より少しだけ大きくなったこの背中に助けられている。


お題『上手な甘やかし方』



back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -