ヤキモチ


俺は今とんでもないものを見てしまった。
クソ暑い中での部活が終わり、頭に水ぶっかけようと近くの水道に向かっていると少し離れた所に見覚えのある姿が2人。
後輩の黒田と俺の彼女の名前。少しずつ近づいてみると会話が少し聞こえてきた。
2人は俺には気づいてはいない。
「じゃあ、明日男子寮前に9時30分に迎えに行くね黒田君」
「分かりました、てかすいません。先輩にわざわざ迎えに来てもらう事になっちまって、俺後輩なのに…」
「大丈夫だよ、だって黒田君。私の家分からないでしょ?それに、明日はお世話になるんだしこれくらいはさせてよ」
「じゃあ、明日はよろしくお願いします。部活の片付けがあるんで俺そろそろ行きますね」
「分かった。部活おつかれさま。くれぐれも靖友にバレないようにね」
「了解っす。それじゃあ、また明日」
そんな会話を終え、2人は分かれた。
当人の俺が聞いているのも知らず…。

なんで黒田と名前が?は?意味わかんねーよ、つか明日黒田があいつん家行くだァ?俺でさえまだ行った事ねーのに。2人で明日あいつん家で何やるんだよ?しかも、俺にはバレないようにだと?ふざけんのも大概にしろよッ!
とりあえず、当初の予定だった水場に行き頭に水をぶっかけた。さっき見た事を無かった事にする様に…
なんとかイライラしていた気持ちを抑え部室に戻ると、運が悪い事に黒田と目があった。黒田は、部室のモップ掛けをしていた。頭が濡れている俺を見て顔をしかめた
「荒北さん、頭濡らすのは勝手ですけどしっかりタオルとかで拭いてから部室に入って下さいよ。モップ掛けした意味が無くなったじゃないすか…」
そう言って俺に備品のタオルを放ってきた。俺が濡らした場所を黒田がもう一度モップを掛け直す。そんな黒田をタオルで頭を拭きながら横目でジッと見た。俺の視線に気づいた黒田は手を止めて「何すか?」
と聞いてきた。俺は「別にィ、なんでもねーよ」と、使ったタオルをその辺に放った。後ろで黒田が何かぎゃあぎゃあ言っているのが聞こえたが無視をして着替えに行った。

寮に帰り、飯を食って風呂から上がった後、自室で夕方の事を思い出していた。だが、考えていても埒があかない為俺は名前に電話をかけた。
発信音数回の後に、はーいと間延びした声が聞こえた。
「よー、何かしてたか?」
「ちょうど、お風呂から上がった所だよ。まだ服も着てない」
そう言われた瞬間、名前の裸を想像してしまい、一気に顔と下腹部に熱を持った。
「バカッ、そういう事はいちいち教えなくていいっつーの!」
「あれ?靖友照れた?靖友にも可愛いとこあるんだね〜」
「うるっせェこの天然女!ったく、ほんと調子狂うぜ…」
一瞬で萎えるネタを想像し、熱を冷ました
「ふふっ、ごめんごめん、ちょっとからかっただけじゃん。で、どうしたの?何か用事?」
「あぁ。お前明日何か予定あんの?偶にはそのー、どっかいかね?普段あんまりそういうの出来ねーしよ…」
そうさりげなく明日こいつが予定がある事を知りながら聞いてみる。すると名前が一瞬息を飲むのが聞こえた気がした。返事を待っているとようやく話し出した
「せっかく誘ってくれて嬉しいんだけど…明日は、クラスの友達と前から約束してた事があって…悪いんだけど、また別の日でも良いかな?」
案の定、こいつは断ってきた。クラスの友達という嘘のオプション付きで。
怒鳴りたい衝動をなんとか押さえつけ先程と変わらない声色で分かったと言った。
「ほんとごめんね、はじめて靖友からデートのお誘いしてくれたのに…。また、今度時間ある時に出かけよ。それと、明日早いからそろそろ寝なきゃなんだよね。」
「分かった、気を付けて行って来いよ。俺がいないからって他の男に尻尾降るんじゃねーぞ」
「そんな事する訳ないじゃん、何言ってんの?それじゃ、おやすみ」
そう言って名前は電話を切った。
「そんな事する訳ない」か、だったら明日お前がやろうとしてる事はなんだってんだよ…
俺は、明日あの2人の後を尾行してやろうと決め、直ぐに寝た。

翌日、自室の窓から寮の出口を見張っていた。俺は、刑事かっつーの…しばらくすると私服の黒田が出てきた。その後直ぐに名前もやって来た。膝丈の薄い緑色のワンピース姿に日よけの麦わら帽子を被っていた。何でそんな可愛い格好してんだよ。その服俺にまだ見せてないやつじゃねーか、なんで黒田が先なんだよ。黒田の奴も何照れてんだよ…。
2人は並んで歩き出した。その様子を写真に抑えてから、俺も2人の後を追う為部屋から飛び出すと…
「荒北」
部屋を出て直ぐに福ちゃんに捕まった。
「あ?福ちゃん。何かよう?」
俺は、少し嫌な予感がした。
「ああ、少し買い物に付き合ってくれないか?お前が俺に勧めていた部品を見に行きたくてな。しかもその店は今日店内40%オフのセールもやっている。頼めないか?」
あー、詰んだ…。まぁ、あの2人が出かける所は写真撮ったし…
「良いよー、んじゃ早速行こうぜ。目当てのもん無くなっても困るしさァ」
その後は、福ちゃんと2人で買い物に出かけた。少しでも、気持ちを紛らわすのにはちょうど良かった。

買い物が終わり、寮に帰って来るとちょうど黒田も帰ってきた所だったようだ。
黒田は俺たちを見て声をかけて来た。
「どうもっす。2人でどっか行ってたんですか?」
「あぁ。部活の備品や試してみたいシューズを買いに行っていた。今日は、安かったからな」
福ちゃんがそう言うと黒田は
「休みの日も部活の為に動くんですね」
と、感心していた。
「そう言うお前は、どこに行ってたんだ?えらく洒落込んでよ」
この流れなら聞けると思い、俺はすかさず黒田に聞いた。
「中学の時の連中に久しぶりに会いに行ってたんですよ、カラオケ行ったりゲーセン行ったり」
久しぶりに会うとやっぱ楽しいっすわと、嬉しそうに話している。
「黒田は、しっかりと休みを満喫したようだな。良い事だ。」
福ちゃんの真面目な返しに苦笑いの黒田。
そして不意に黒田から何か匂いがした。
「ん?黒田ァ。お前なんか食いモン持ってる?焼菓子みたいな匂いお前からするんだけどォ?」
すると黒田は、あー、持ってますよ。
そう言って取り出したのはネコの形のクッキー。白と黒の色があり可愛い感じのものだった。
「今日あったメンバーに、女子が居てそいつから貰ったんですよ。荒北さんってほんとに匂いに敏感ですよね」
黒田はその場でクッキーの袋を開けた。
「良かったら、一つどうですか?カラオケしてる時に食べる用の奴も焼いてて俺もう食べてるんですよ。その余りを皆で分けたんです」
俺が貰うのを渋っていると、福チャンが先にクッキーに手を伸ばした。白い方を取り口に運んでいる。無言で食べた後に
「美味い」と言った。俺も気になって手を伸ばそうとすると黒田が急に袋をしまった。
「荒北さんには、やっぱあげたくないっす。」
「アッ?んでだよ!何で福チャンは良くて俺はダメなんだよッ?!」
「昨日、あんたが部活終わった後に濡れた頭で部室入って来るわ使ったタオルその辺にぶん投げとくわで面倒かけられたんで」
そう言って、福チャンに失礼しますと言って部屋に行ってしまった。黒田が行った後福チャンに小言を言われ散々な目にあった。
その後、福チャンと別れ部屋に戻った。
部屋に戻ってからも、モヤモヤしたもんがぐるぐるして気分が悪かった。

休み明けの教室。いつ名前に昨日の事を問い詰めてやろうかと考えていると…
「おはよう靖友。この間はごめんね、今日の昼休み時間あるかな?」
「はよ、空いてんヨ。じゃ昼休みなったら中庭のベンチのとこな」
「良かった、うん。分かった。それじゃあまた、昼休みね」
そう言って自分の席に戻って行った。
午前の授業が始まり眠気が来るのを耐えながら昼休みになるのを待った。
いつもより長く感じた午前の授業が終わり昼休みになった。昼飯のパンを片手に中庭に向かうと俺の方が先に着いたようで名前が来るのを待つ。しばらくすると、おまたせ〜と言って小走りで近づいて来た。手にはいつもの弁当箱と別に箱を持っていた。
「オツカレ、別にそこまで待ってねーよ。てか、そっちのは何だ?」
気になって聞いてみると
「これは、お昼を食べてからのお楽しみ。早くお昼食べよ!」
答えをはぐらかされ、とりあえず昼飯を食べる事にした。
食い終わるとさっきの箱を名前が開けた。中には黒田が持って帰って来ていたあのクッキーが山ほど入っていた。
あの時は、黒と白しかなかったがこっちには緑やピンクにチョコが入っている物など沢山の種類が入っていた。名前は一つ取り出して俺の口に入れて来た。黒猫の味は甘さ控えめのダークチョコの味で比較的好きな味だった。
「…うめェ。どうしたんだよこのクッキー。しかもこんなにたくさん。」
すると名前は、足をぶらぶらさせながら話し始めた。
「前に、靖友がたまには私の作ったもの食べてみたいって言ったじゃん?だから、何が作れないかなぁと思って調べてたんだ。私そういうの苦手だし。そしたら、たまたま黒田君に図書室で会ってどうしたら良いか相談したら、彼がクッキーとかどうですかって。私が作れない事言ったら、だったら俺が教えましょうかって言ってくれて…」
「ちょっと待て、黒田ってそういうの作れんの?」
「うん。ホワイトデーのお返しとかで作ってたらしいよ。それでこの間の休みの日に黒田君に教わって作ったの…」
休みの日の事はこれで分かったが、どうにも納得できねー事がある。俺は名前の手首を掴み引き寄せ、そして耳元で声をワザと低くして問い詰めた。
「なァ…何でそれ黙ってたんだよ。わざわざ友達と出かけるなんて嘘までついて…」
俺の声と行動にびくりと震え、名前はなんとか声を出した。
「っ、だって正直に言ったら靖友絶対ダメって言うと思ったし…それに内緒にしておいて驚かせたかったから…けど、嘘ついたのはごめん」
だんだんと声が小さくなり、俯いてしまった。仮に正直に話していたら確かに許可は出さなかっただろうと思う。だからと言って嘘を突かれるのもなぁと思ったが結果的には美味いクッキーを俺の為に作ってくれたと思えば悪い気はしない…。
俺は掴んでいた手首を引っ張り抱きしめてた。周りにチラホラ他の連中が見ているがこの際気にしない事にした。
名前はというと、ジタバタと暴れている。ここ学校だし、しかも外!なんて言っているが無視をして話を始めた。
「俺の事を喜ばせるためにやった事だったってのは分かった。けどな、嘘を突かれんのはやっぱり良い気はしねー。クッキー美味かったから今回は許してやるけどよ。次はねーからな」
そう言って、デコピンをかましてやった。
名前は、でこをさすりながら頷いた。
俺は箱からクッキーをつまみ口の中に放った。
昼休みが終わるまでに、クッキーは半分以下まで減っていた。少し食い過ぎたかと思ったがこいつの嬉しそうな顔をみると自然と口に運んでしまうのが悪いと自己解決しさらに口に運んだ。
今日の部活で、ローラーをいつもより多く回せば良いだけだ。
end

放課後、部室で俺がいつもより多くローラーを回していると黒田が近づいて来た。手にはボトルとタオルを持っている。
「苗字さんから、クッキー貰えて良かったっすね。聞きましたよ、昼休みに沢山食べてくれたって」
そう言って、持っていたボトルとタオルを俺に寄越した。もう隠す気は無いらしい。
俺は、水分補給をしてタオルで汗を拭った。
それにしても…と、黒田が何かを思い出したかのように話し出した。
「荒北さんって、独占欲強いんすね。彼女に噛み付いて跡残すなんて」
俺は、飲んでいた物を少し吹き出した。
「なっ、お前どこ見やがった?!腹か胸かそれとも首か?!」
「いや、焼けたクッキー取り出す時に苗字さん、少し火傷しちゃって水で冷やしてる時にまた跡が増えるなんて言ってて、その時に荒北さんが噛み付く事あるんだって言っていたのを聞いただけで何処にあるかまでは聞いてなかったんすけど…」
黒田はそう言って呆れた顔をした。
俺はというと、余計な事まで暴露してしまい小っ恥ずかしくなり黒田を蹴飛ばして部室から出たのだった。



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