ベッドの上の思考停止


シャーと奥から鳴り響く音を聞きながら、赤いパンツ一丁で部屋をウロウロするワイ。ワックスの取れてへたった髪からは、ときどき溜まった水滴が床に落ちる。
傍から見たら不審者やろうし、奥から聞こえる音はほんまはさほど鳴り響いてない。ワイの聴覚が変にそっちに集中してるからやと思う。
ほんでここはちゃんと締め切られた部屋や。今はワイ以外はおらん。せやからワイがどんな格好してどうしてようと不審がられることはない。
正確には奥にもう1人おる。さっきからワイの聴覚を離さない水音から、どこにおるんかは察してくれ。
せや、部屋が無音やからそっちばっか気になんねん。
ぐるりと不自然に腰をまわした先には、ワイの家にあるよりも遥かにデカいテレビがある。特に観たいもんはないけど、何かはやってるやろと思ってテーブルに真っ直ぐ置かれとるリモコンを取った。
なんの躊躇もなく1番右のボタンを押す。そんときはここがどこかとか考えとらんかった。
テレビはテレビや!シャワーの音が消えるならなんでもええ!
そんな感じやった。
余裕がないわけやないで?今のワイは余裕ぶっこきマンや。けどなんちゅーかあんま女性のそういう音を聞くのは…まあ…あかんやろ?
紳士の嗜みっちゅーもんやで。

今まで真っ暗やった画面がパッと明るくなる。それと同時に音量の+ボタンを連打しとった。

『っ……ん、あっ…ああーっ!』

「!!?どわあああああっ!!」

身体がひっくり返るかと思った。一瞬しか見えんかったけど、女の人の白い肌…おっぱいが画面いっぱいを覆ってた気ぃする。
そのテレビは再び真っ暗になっとった。目にも止まらぬ速さでリモコンを持ち直して電源を切ったんやと思う。テーブルにあったはずのリモコンが床に転がってた。

「どうしたのー?」

「げええっ!?…いやぁ…何もあらへん!あーアレや、虫が出ただけですわ!安心しとってください、退治しときましたんで!カッカッカー!」

ちょうど上がったんやろう名前さんがまだ拭いとらん髪のまま顔だけ出した。
それにくっついて白い左肩と鎖骨ら辺まで見えとる。
それだけでも生々しい。
「えー虫ぃ?」とか言いながら顔を引っ込めて身体を拭いとるようや。布が肌を擦る音が微かに聞こえた。




苗字名前さん。
ワイの2つ上の先輩やった。総北の自転車部に入ったときはもう、立派なマネージャーをやっとった。
サポートも応援も一生懸命で、IHのときは誰よりも声を出しとった。終わったあと枯れるくらいに。
好きになるのに時間はかからんかった。せやけど子供扱いっちゅうか、やっぱり年下を扱うようやった。
けどそれでもよかった。ワイのいるとこに名前さんがおるんなら。

それを奪ったのは卒業。ワイがいても名前さんはおらへんようになる。しょうもないことやとわかってても、ごっつムカついた。

卒業式が終わったあと、隙を見て2人になったとき告白した。言ってどうなるかもわからんかったけど、もう会うこともないかもしれへんと思ったら意外と吹っ切れた。
名前さんはワイが見てても沸騰しそうなくらい真っ赤な顔で何回も頷いとった。ごっつ新鮮やった。

付き合ったのはええけど、そっからは離れ離れや。名前さんは関西の大学に進学した。
付き合おうてもなかなか会える機会なんかなくて、名前さんの夏休み、IHを見にこっちに長期間帰ってくるっちゅーんでIHも終わり今に至るわけや。

そんでワイはこれからほんまもんの男になる。男の中の男になるときがきたんや。

「ふー、広いお風呂だったねぇ」

白い肌を真っ白なバスローブが包み、少し染めた髪を同じく真っ白なタオルで拭きながらワイの背後から戻ってきた。
ワイは驚いた猫みたいに毛が逆立ち、ベッドに飛び乗ると何故かそこで正座しとった。

「あれ?もう脱いでるの?早いー」

名前さんはワイを茶化すように前屈みになって片膝をベッドに乗せた。ギシッとベッドが軋む。

「ねー、鳴子は童貞くん?」

「はぁっ!?ムードもなんもないこと訊かんといてくれます!?」

「だって童貞くんだったらいろいろ教えてあげよっかなーと思って」

「そ…そそ、そんなわけあらへんやろ。そんなもんはとっくに捨てたったわ!」

「えーなんだ、つまんない」

じっと顔を近付けてくる名前さんからは、ワイと同じ匂いがする。風呂上がったばかりのせいか、まだ熱気を感じた。髪から垂れた水分か首元を通って胸元のバスローブに吸い込まれていく。

……エロい。エロいわ。なんやねん。
あかん。勃ってきた。

パンツ一丁でいたことを後悔しながら不自然にならない程度に出来るだけ背中を丸めてパンツの突っ張り出した中心を目立たなくした。

「……鳴子…」

もうワイを呼ぶその声もどこか艶っぽくて色っぽい。
あかん、がっつきそうや。

名前さんのバスローブ越しの両肩に手を置くと、同じくらいのタイミングで目を閉じた名前さんにキスをする。
キスやって何ヶ月ぶりやろ……。卒業式のときは僅かに触れるくらいのやった。
けど今日はそれやと物足りん。
ワイは強く唇を押し付けると、「んん…っ」と名前さんからくぐもった声がした。

経験はないが、それなりに知識はある。
少し名前さんの唇を舐めてみると、名前さんは素直に割った。
とりあえず舌を入れて名前さんの舌と接触するが、やり方がまったくわからへん。すると名前さんの方からワイの舌に絡みついてきて歯茎の裏までなぞられた。

なんやこれ。
唇だけでこんなええんか。
ワイの息子ギンギンなんやけど。

それが率直な感想。

けどワイにも男のプライドっちゅうもんがある。
腰のバスローブの紐に手をかけてスルスルと解く。胸元が緩んで谷間が刻まれとるのと、黒い下着が見えた。
当然ブラジャーなんか外したこともあらへんけど、ゴリ子さんの背中になんなく通ったワイの腕の先にホックがあるのくらいは知っとる。
抱き締めるようにしてなんとか両手を使えば外せるやろ、と思ってた。
せやけどなかなか外れない。ワイがしばらく格闘しとると、痺れを切らした名前さんがクスクス笑い始めた。

「自分で脱ぐよ」

「ワイかて出来るわ」

「童貞くんなんだから今日は私に任せていいよー」

「ちゃうわ!」

「はい、嘘。私が初めての彼女なんだもんね?」

「……彼女おらんくても童貞かはわからんやろ」

「えー鳴子ってば彼女以外ともしちゃうタイプなんだぁ」

「そんなわけないやろ!彼女にしかせえへんわ!」

「ほーら、じゃあやっぱり初めてじゃん」

名前さんがベッドから降りてすっと立ち上がる。もうほとんど開いたバスローブの合わせを持って広げると、腕をすり抜けてストンと床に落ちた。
目の前の名前さんの下着姿にまた正座し直す。膝の上に置いた手は手汗がえらいことになっとるし、喉の奥で生唾が通る音がする。
目を逸らしたいくらい綺麗な肌に、映えたエロい黒の下着に目が離せなくなっとった。ワイの身体は下半身含めて銅像のようにガッチガチやったと思う。
ちっさい黒の布に包まれたおっぱいと蜜部。それにレースがひらひらくっついとって益々エロい。
今日のために買ったとかやったらガッツポーズもんやで。

「…ジロジロ見て…鳴子のエッチ」

「すんません。童貞なんでじっくり見させてもらいますわ」

そんな強がりが混ざったように言いながら、心臓はバックバクなんは秘密。

ホックを外すために名前さんが両腕を後ろにまわす。それに反しておっぱいが前にツンと突き出た。
ワイの目は今飛び出てるんやないやろか。そんくらいおっぱいに釘付けだった。
あっさり外れたホックで、ブラジャーが緩み胸元が解放される。柔らかそうなおっぱいが解放によってぷるんと揺れた。
ブラジャーを剥ぎ取ったら乳首もなにもかも見えるんやろうな、とそわそわ期待しながら、心の中でワイの童貞人生に「サイナラ」と告げた。





End



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