「こいつに読み書きを教えてやってくれないか?」

 そう言ってシンドバッドが私に突き出してきたのは、私よりいくらか年下であろうファナリスの少年だった。無感動な切れ長の目が私をじいっと見つめて、そしてすぐに逸らされる。訳が分からずにシンドバッドを見ると、彼はいつもと同じように快活に笑って、そして言った。

「俺よりお前の方が教えるのが上手いだろう?ジャーファルも、あれは頭はいいが人にものを教えるような性格ではないから」
「…何ヵ月も音沙汰なしに、やっと訪ねてきたがと思えば。一体何なんですお前は」

 私は彼に胡乱な視線を向けてみるが、元来気にするような男ではない。「数ヶ月ここに世話になるから、その間に頼むよ!」と言われ、私は溜め息を吐いた。世話になるから、などと言っても、この屋敷の主は私なのだから、私が否と言えば世話になれるわけもないのに。
 ずるい男だと思う。彼一人ならばいざ知らず、私と同年代の子供を連れていれば、私が宿泊を断らないと知っているのだ。本当にずるい。

「…その代わり、ここにいる間、家のことは貴方たちがするのですよ」

 私が溜め息混じりに言うと、彼はまた私に微笑んで、勿論だとも!と言ったのだ。
 私はまた、ファナリスの子供に目を向ける。シンドバッドの服の裾を掴んだまま、そっぽを向いていた。「…貴方も、」と私が言うと、彼は弾かれたように私を見る。聴覚が敏感なファナリスだからだろうか、それにしても少し、過剰な反応ではないかと思った。

「これから世話になる人間に対する態度ではないでしょう。せめて目を見るくらいはするものですよ」

 私の言葉に、その少年は「…ッス」、と小さく会釈した。ここに初めて訪れた時のジャーファルさんほどではないが、彼も中々に無愛想なようである。



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