「健康優良児本当に羨ましい」
「…」
「いきなりどうしたんです貴方」

マスルールくんの背中から降りながらそう言うと、いつものように執務机に着いて仕事をしていたジャーファルさんが私を見た。その呆れたような目は何なのだろうか。私が手にしていた数枚の紙をひらひらと示すと、彼はああ、と頷いた。しかしやはり呆れた目である。

「今回は何て言われました?」
「よく生きてますね、と」

溜め息をついて自分の席に座る。私が睨み付けた紙には、健康診断結果、という素っ気ない文字が書かれている。

「何なんですかね健康診断で引っ掛からない人って」
「それが大多数ですよ。貴方がアレすぎるんです」

アレって何だろう、と思いながらも、私は診断結果を丸めて屑籠に捨てた。机に置きっぱなしだった茶碗から一口茶を飲んで、ペンを握り直す。背後にマスルールくんが仁王立ちになっているのが少し気になったが、無視を決め込むことにする。

「そういえばもうすぐあれですね、体力測定」
「貴方出ないでしょう。医者に運動止められてるんですから」
「そうですけど。ジャーファルさんは参加なさるんですか」
「当然」

無駄話をしながらも手を止めずにペンを動かす。ジャーファルさんほど偉くなると違うのかもしれないが、私の官位の仕事は紋切り型なものだ。機械的に手を動かすだけなので、ながら仕事も割合可能なのである。

「先輩、毎日仕事してるのに体力落ちないスよね」
「私は体力より戦闘技術特化ですから、多少運動を怠っても身体が覚えているんですよ」

八人将2人がそんな話をしているのを尻目に、私は溜め息をついた。ちなみにマスルールくんは、滅多にやらないが垂直な壁を走ってのぼれるらしい。躓いて転んで少し恥ずかしい思いをすればいいのに。

「ちなみにシルディアさん、どのくらいの運動まで大丈夫なんすか」
「歩くのは許されています」
「……」

背後のマスルールくんから絶句の気配。ジャーファルさんまで書類の山を掻き分けて私の顔を見てきた。その反応解せない。

「走るのも駄目なんですか」
「駄目ですね。それに歩くのも、少しでも息が上がってきたら休むように言われています」
「……生物として弱すぎますね」

うわぁ、と青ざめたジャーファルさんが口許に手をあてている。マスルールくんなど、移動するときは運びますから俺を呼んでください、とか言い始める始末だ。
ふと、ジャーファルさんが何かに気付いたように息を飲む。まさか貴方、と言われて、私は顔をあげた。

「さっきマスルールにおぶさっていたのは…」
「ああ、階段を上るのに普通の人の7倍ほど時間が掛かるんです私」

今度こそ凍りついたジャーファルさんに、私は辟易して溜め息をついた。
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