「あっおはようございます青秀さん!」
「ん、おはよーさん」

紅明さまの朝餉を運ぶ最中、紅炎さまの眷属、青秀さんと行きあった。先日私が廊下にぶちまけてしまった鳩の餌を(件の紅炎さまの命令でではあるが)片付けてくださった人だ。

「お前、宮廷女官でもないのにそんなことしてんのかよ。この前もだけどよ、それって武官の仕事なのか?」

今から出仕するらしい青秀さんは、わたしが手に持った盆を見て眉根を寄せた。わたしもそれにつられて盆を見る。今朝の紅明さまのお食事は粥だ。一晩寝ていらっしゃらないから、軽いものがいいだろうかと思って。

「紅明さま、考え事をしているときに次々と人が入ってくるの苦手でいらっしゃるんですよ。今朝は兵法書片手に何か考え込んでらしたので、給仕はわたしがやった方がいいだろうな、と」

思ったん、ですが。
こういうのって、普通の眷属はやらないものなんだろうか。わたしもしかして出しゃばり?なんて思って言葉が尻すぼみになる。出しゃばってると思われたらいやだな。

「変ですか?」
「ん?いや、ただお前って働きたがりなんだなぁと思って」

尋ねれば、青秀さんはちょっと笑って首を横に振る。髪が変化した蛇さんたちが、ちろちろと舌を覗かせてシューと鳴いた。これを鳴いたって言うのかどうかはわからないけど。

「まあでも、女官の仕事とるのはやめてやったらいいんじゃねぇのか?せめて部屋の前まで持ってきてもらうとかよ」

それで飯にありついてる奴もいるんだから。青秀さんはそう言って、わたしの額を鋭い爪が乗った指先でつついた。指の腹で押されただけだから痛くはなかったのだけど、爪が尖っていることを知っているわたしにとってはちょっと怖くて、押された場所がなんだか居心地悪くむずむずする。

「んん、そうですね…ありがとうございます」

わたしは青秀さんにお礼を言う。仕事をしてあげるのはいいことだと思っていたんだけど、言われてみればそうだ。わたしだって、先輩に「何もしなくていい」なんて言われたら困ってしまうから。
青秀さんは「頑張れよ」と言ってわたしの頭を撫でてくれた。わたしの頭をすっぽり覆ってしまいそうなくらい大きな掌に撫でられて、ちょっと嬉しくなる。

「お前、そのにやけ顔で紅明様の前に出たら頭変になったと思われるぞ」
「へっ?」

ぱ、とわたしの頭から掌を離した青秀さんが、ちょっとだけ呆れたような声で言う。そ、そんなににやけてたかな。
人に褒められたり励まされたりすると、どうしてもだらしなく頬が緩んでしまうのだ。気にされてるのかな、期待されてるのかな、なんて思って嬉しくなる。

「ほら、もう行けよ。紅明様にそれ運ぶんだろ?」

そう言いながら、青秀さんはわたしの肩に両手を添えてわたしの身体を紅明さまのお部屋の方へ向けさせた。最後に、肩から離れた手がぽん、とわたしの背中を押す。

「じゃーな、雪蘭」
「はいっ、青秀さんもお仕事頑張ってくださいね!」

振り返ってちょっとだけ会釈して、わたしは盆の上の粥を揺らさないように気を付けながら、でも少しだけ急いで廊下を渡る。
紅明さま、お眠りになってなきゃいいけど。紅明さまはあんまり眠いと食事はいらない、なんて言って寝てしまうのだ。無理に起こして食べさせても、あまり多くは食べてくださらないし。
そんなことを考えながら、紅明さまのお部屋の前に立った時。わたしははたと気が付いた。

「青秀さん、わたしの名前覚えててくれてたのか…」


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