紅明さまの言いつけで、軍の畜舎から鳥の餌を貰って帰る途中。宮廷の庭に鳩やら雀やらがいるのを見て足を止めた。ぴーちくぱーちくくるっぽー、小さくてかわいい。
わたしは両手で抱えていた籠をちらと見遣る。鳥避けの布を被せたその中には、沢山の鳥の餌が入っているのだ。ちょっとだけならバレないだろうか。餌をあげたい。

「……いやいやいやいや」

ちょっとくすねてしまおうか、なんて不穏なことを考えた頭をぶるぶると振って、そんな考えを追いやる。
だめだそんなの。これは日々軍議や兵の指揮で頑張っている紅明さまの、唯一の癒し。それを眷属たるわたしが邪魔しようだなんて、そんなのはダメだ。眷属失格である。

「雪蘭」
「ぅばるぼすっ!??」

考え事をしているところに後ろから話し掛けられて、わたしはびくん!と肩を跳ねさせた。と同時に、ざざーっ、と不吉な音。
わたしは驚いて、抱えた籠を落としてしまったのだ。案の定鳥の餌は床に散乱し、その音に反応した鳥たちが瞬く間に寄ってくる。鳩、雀、烏に雉。ちょっと見たことのない煌びやかな鳥さえいる。
うわあああああああ掃除しないと!とあわてる私の両肩を、大きな手ががしりと掴んだ。

「何をしている」
「…こ、紅炎さま……」

文句のひとつも言ってやろうかと振り向いたわたしは、しかしわたしの肩を掴んで見下ろしてくるその人の姿を見て、血の気が下がるのを感じた。
そこには、我が主の実兄にして煌帝国第一皇子、練紅炎さまがいたのである。しかも後ろに馬鹿でかい眷属4人を従えて。やだこわい。
紅炎さまはわたしの肩口から餌に群がる鳥たちを一瞥し、「鳥に餌をやっていたのか」とひとつ頷いた。

「いや、違いますけど…」
「何?ではこれは何だ」

あんたの声に驚いて落としちゃったんだよ!!…などとは言えず、とりあえず「呆けていて落としてしまいまして…今片付けますね!」と愛想よく笑っておいた。

「…その者は若の声に驚いて、持っていたものを取り落としたのでは?」

と。控えていた眷属の一人が、紅炎さまに進言した。そうだよそれだよ!!とその眷属さんに抱き着きたくなるのを何とか堪えて、「いえ、わたしの不手際でして…」と苦笑する。わたしが紅炎さまの不興を買うことは、そのまま紅明さまが彼の不興を買うことに直結する。それだけは何としても避けたい。
しかし紅炎さまは眷属さんに「そうか」と返して、わたしの足元の惨状を見ながらその髭を撫でた。

「…お前たち、これを片付けておけ」
「「「「「えっ」」」」」

うむ、と頷いた紅炎さまに、わたしと眷属さんたちの声が重なる。わけが分からずに眷属さん達をみるが、4人が4人ともちょっと困惑した目をわたしに向けた。彼らの目に映るわたしもまた、同じような目をしているのが見える。

「あの紅炎さま、恐れながら…片付けるのはわたしだけですよね?」
「?…いや、お前ではなく、こいつらに片付けろと命じたつもりだが」
「「「「「えっ」」」」」

またもやわたしと眷属さんたちの声が重なった。おかしくね?わたしの不手際だっつってんのに眷属さんたちが尻拭いをする意味がわからない。
髪が蛇の眷属さんがいち早く混乱から立ち直って、「ここはやっておくから…」とわたしの頭を撫でた。えっ何、これ従う方向なの?あなた方はそれでいいの?わたしだったらキレるよ?もし紅覇さまとかの尻拭いをしろって紅明さまに言われたらわたしキレるよ?いや最終的には従うけどそこまで聞き分けよくないよ?

「どうせ新しいのを貰いに畜舎まで行くのだろう?今日は俺も厩に用があるからな、護衛にはこれを付けた方が能率的だと判断したまでだ」
「そんなの絶対おかしいよ…」

あまりのことに、わたしは敬語すら忘れて呆然と呟いた。しかし紅炎さまは気にした様子もなく、ぐいっとわたしの首根っこを掴んで畜舎の方へ歩き出した。
えっちょっ待って、と眷属さんたちに助けを求めるが、4人全員に頑張れよ…とでも言うように頷かれた。やだ何それこわい。
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