「リアちゃん、私とジュダルちゃんと遊びましょお!」

妹姫様がそう言って僕の部屋にマギ様を引き摺っていらしたのは、ちょうど僕がお昼寝から起きた時分だった。寝起きでぽやぽやした頭で、僕は瞬く。

「あそ、び…?」
「そうよぉ!この札ね、二枚ずつに同じ絵が描いてあるでしょう?これを裏にして並べるから、同じ絵の札を当てるの!」

妹姫様が取り出した沢山の札を受け取る。表には色々な絵が描いてあるけれど、裏の模様は全部同じだ。探してみれば、確かに表の絵は同じものが二枚ずつあるようだった。
面白そうでしょう?と妹姫様が言う。その隣で、マギ様が大きく舌を鳴らした。

「おいこらババァ!それつまんねぇから嫌だって言ってんだろ!こいつと二人で遊んでろっつの!」
「ババァって呼ばないで頂戴!ジュダルちゃんも一緒に遊びましょ!」

妹姫様はじたばたと暴れるマギ様の腕を抱えるようにして、部屋から出て行こうとするマギ様を押し留める。マギ様は乱暴に腕を振って引き剥がそうとなさって、でも妹姫様はそれをものともせずに楽しそうに笑っていらした。紅炎様とお可愛らしい妹姫様とでは全く似ても似つかないと思っていたけれど、こういう強引なところはそっくりなのだなぁと思った。




「これと、これ」
「これ?…すごい、また当たったわぁ!リアちゃんったらすごいのね!」
「そうかな…」

きゃあ、と妹姫様が僕の手をとって喜んでいる。僕の前ではマギ様が唇を尖らせて札を睨んでいた。寝台の上に札を並べて、札を一枚一枚めくっていく。マギ様が一人、僕と妹姫様が二人がかりで、交互に札をめくっていて、今は僕と妹姫様の番だ。

「ジュダルちゃんもとっても強いのよ?でもリアちゃんもすごいわ、さっきから当てっぱなしだもの!」

マギ様はフン、と鼻を鳴らすと、ぱっと手を伸ばして次々と札をめくりはじめた。一枚札をめくれば、次は同じ絵の札を。二枚、また二枚と札はめくられて行って、結局残る札は二枚だけになってしまった。マギ様の最後の仕上げとばかりに残った二枚をめくろうとして、でもふと何か気が付いたように手を止めて僕を見る。

「おいお前、これめくらせてやるよ。それで終りにしようぜ」
「ちょっとジュダルちゃん!どういうつもりよぉ!」
「どういうも何も、最後はお前らに勝たせてやるってんだから文句ねぇだろ?」
「そういうことじゃないのよぉ!順番こにめくりましょって決めてあったでしょお!!」

ぷりぷりと怒る妹姫様の怒声もどこ吹く風で、マギ様はそっぽを向いている。もうっ、と頬を膨らます妹姫様が可愛らしくて、僕の頬は何となく緩んだ。
つい、と敷布の上に残った札に手を伸ばして、一枚をめくる。青い蝶の絵が描いてある札だ。続いて、最後のもう一枚。紅色の線で複雑な模様が描かれた裏面を撫でて、札をめくろうとして…、ふと、僕は手を止めた。

「リアちゃん?」

僕が手を止めたことを不思議に思ったんだろうか、妹姫様が僕の顔を覗き込む。その薄桃の目を見て僕が瞬くと、妹姫様は不思議そうに首を傾げた。

「…これ違います、妹姫様」
「え?」
「……なんだよ、分かってんじゃねぇか」

僕がぽつりと言うと妹姫様はますます不思議そうな顔をして、一方でマギ様は大きく溜息をついて僕がめくろうとしていた札をひったくった。そうして表の絵を確認すると、眉根を寄せて札を敷布の上に投げるように戻した。
表の絵は、月を見上げる兎。

「…あらぁ?持ってくる札間違えちゃったのかしら…」
「ババァ、もう何回やったって無駄だぜ。俺もそいつも札の絵見えてんだからよ」
「だからババァって言わないでって…!…え?見えて、え?」
「一枚めくると番いの札にルフが集まるんだよ。だから言ったじゃねぇか、つまんねぇから嫌だってよ」

マギ様にそう言われて、妹姫様がゆっくりとこちらを見る。「そ、そうなのリアちゃん…?」と、こわばったような顔で問われて、僕は瞬いた。

「…?ただ同じ絵をめくる遊びでしょう…?」
「そう、そうなのだけどっ…当たるかはずれるかも含めての遊びなのよぉ!」
「…なんではずれるの?」

だって、見えてるのに。
そう妹姫様に問えば、妹姫様は脱力したように寝台に倒れ込んだ。

「こんなの茶番よぉ…出来レースよぉ…」
「ババァ一人が楽しかったってことだな」
「…そんなこと、ないです。僕、楽しかったし…」

寝台に伏してしくしくと泣きはじめてしまった妹姫様の背を擦りながらそう言うと、マギ様は「嘘吐くなって」と仰った。

「嘘じゃない、です」
「はあ!?これの何が楽しいんだよ」
「札をめくるところとか…」

僕の言葉に、マギ様は一瞬虚を突かれたように目を見開いた。それからどはぁ、と息を吐く。

「お前、なんつーか…一人で無限の時間を潰せそうだよな」
「…?」

呆れたようにそうおっしゃるマギ様に、それ以上お話を聞くことは出来なかった。「リアちゃぁん!」と僕に抱き着いてわんわんと泣く妹姫様の背中を撫でるのに忙しくなってしまったからだ。
札遊び、楽しかったのに。札をめくるところとか、札をめくると妹姫様が喜んでくれるところとか。
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