「………………マスルールくん」
「はい、シルディアさん」
「………………あれが何なのか、私にはちょっと理解が出来ないのですが」
「アバレウミウシっすね。…………シルディアさんに擬態した」
「………………」
「大きいシルディアさんも綺麗だと思います」
「……あれは私ではありません」

ふらりとよろめきそうになるのを必死で堪えながら、私は港からこちらに向かってやってくるアバレウミウシを見据えた。
あの生物が八人将や王そっくりに擬態して舟を襲うことがあるのは聞いていたが、まさか自分が擬態される日が来るとは全く思っていなかったのだ。大体王宮に籠りきりで殆ど海まで出ない私に、何故擬態しようと思ったのか。解せない。

「シン、どうするんですか…?私は厭ですよ、シルディアを討つだなんて」
「俺だって厭だよ…っていうかあのシルディア、ちょっと肉付きがいいな」
「ええ、本物より健康的ですね」
「あれをシルディアと呼ぶのはやめてくださいませんか」

予想外の擬態をされた混乱からか、隣でアバレウミウシを見ているシンドバッド様とジャーファルさんがわけのわからない会話をしている。確かにあれは痩せぎすの私より一般的な女性の体形に近いが、正直あれと比べられる方の気持ちにもなってほしい。

「早く倒してください…夜までに謝肉宴の準備をしなくてはいけないんですから」

呆れ果てた私が言うが、シンドバッド様とジャーファルさんは「ちょっと忍びないよな…」「ええ…」などと言って動こうとしない。
マスルールくんを見ても、「無理です」と首を振るばかりだった。

「あれの横っ面にちょっと蹴りを入れるだけの簡単なお仕事なんですよ…?」
「いや、シルディアさんに蹴りとか無理です」
「あれ私じゃありません」

無理無理、と頑なに断るマスルールくんに辟易して、私はシャルルカンを見た。が、速攻で目を逸らされた。

「どうして目を逸らすんです、こちらを見なさいシャルルカン」
「いや無理」
「じゃあ見なくてもいいです、あれを斬ってきてください」
「もっと無理!」
「いつもやっていることでしょう」
「お前それ自分の後ろのマスルール見てから言えよ!さっきから俺のこと射殺すような目で見てるからな!?」

俺先輩なのに!などと言ってわっと泣き出したシャルルカンを、珍しくヤムライハ様が慰めていた。これでは私が虐めっ子のようだ。
助けを求めて他の八人将の皆さんを見遣るが、全員にしらっと目を逸らされてしまう。私はただ、自分に戦闘能力が微塵もないことを悔やむしかなかった。
結局耐え切れずによろめいた私の体を、マスルールくんがすかさず支える。

「そういう…支えるとかいいですから…あれを倒してきてください……」
「無理っすね」

事もなげに言ったマスルールくんの声に、私は気が遠のくのを感じていた。





着地点が見つからず尻切れトンボ。
多分ヒナホホさんあたりが倒したんだと思います。でそのあと凄い謝られて複雑な気持ちになったんだと思います。

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