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「……その人もしかして、色白で顔四角かったりする?」
「……勘ちゃん、あの人は豆腐とかじゃないのだ」
「だってありえないでしょあの兵助が優しくされて一目惚れとか!!アレか!老舗豆腐屋の令嬢とかだろその子!!!!」
「違うと思う、多分」
「……恋の奥深さに俺はちょっと挫けそうです」
遠い目をした勘右衛門を見て、久々知が首を傾げる。見れば、他の3人も何だかポカンとしている。
「突飛過ぎるだろそりゃ…夜の公園で擦れ違って、挨拶して、一目惚れ?相当の美人だったのか?」
「いや?綺麗だけど、その辺に居そうなタイプの人だった」
呆れたように言う鉢屋に、特にそれを気にする様子もなく平然と久々知が答えた。
ちなみに久々知は、その公園で自身が泣いていたことや何度も彼女に泣き言を聞いてもらっていたことは伏せている。特に言うべきことではないと考えたし、それに何より恥ずかしい。この年になって夜に公園で泣いていたら、酔っぱらいか或いはもう完全に不審者だ。
「兵助の王子様登場か……これはもう出歯亀せざるを得ないね」
「は?お姫様じゃないのかよ、勘右衛門」
「うんにゃ、王子様だね。ハチ知らないの?兵助って高校最後の文化祭でシンデレラ役やったんだよ」
「マジか」
「演技は大根も良い所だったけど、顔のキレイさだけで女の子押しのけてシンデレラにおさまってた。ちなみに俺は舞台監督やってたんだけどねー」
勘右衛門の昔語りに、久々知はむぅ、と表情を曇らせた。そんなことを今さら掘り返さなくたっていいじゃないか。
「しかし面白そうだな。兵助、私達が協力してやろうか?」
「三郎、小さな親切大きなお世話だよ」
「だって雷蔵、こんな愉快なこと中々ないぞ?」
「人の恋路を面白がるのはどうかって思うけどなぁ…」
にまにまと笑う鉢屋を諌めようとして、雷蔵は見事に失敗していた。それどころかちょっと言いくるめられそうになっている。雷蔵もまた、根底では面白がっているらしい。久々知がさらに苦い顔をするが、彼らは既に気付いていなかった。
「いいだろ別に、俺がどんな人を好きになったって」
「そりゃまあ、兵助の自由だけどさ」
はは、と曖昧に笑った竹谷が、久々知の肩を軽く叩いた。
「俺たちは心配なんだよ、上手くいくかどうか。出来る事なら上手くいって欲しいけどさ、やっぱ兵助にふさわしい相手かどうか気になるじゃん。な?」
「…………うーん」
竹谷の苦笑に、久々知は複雑そうな表情で返した。そういうことを面と向かって言われると、少し恥ずかしかったりする。
「まぁ必要ないかもしんねぇけどさ、俺たちに助けて欲しかったら遠慮なく言えよ?皆兵助の幸せを願ってるんだって」
「……うん」
……やはり照れくさい。見回すと、勘右衛門と鉢屋が意味ありげに笑んで久々知と竹谷を見ていた。
「……何だよ?勘右衛門、三郎」
「んーん?ハチがなんかクサいこと言ってるなーって」
「そうそう、八左ってよくそんなこっぱずかしい事言えるよな。私には無理だ」
「なっ……!」
2人に囃されて赤くなった竹谷を見て、雷蔵が笑う。それにつられて全員が笑った。
よく晴れた昼下がり、私立大川大学の第二学生食堂にてのことである。