彼の混乱
おぎゃあ、おぎゃああぁあ。
みぃちゃんが頭の奥で泣いている。泣かないで、泣かないで欲しいのに。どうして泣くの?泣かないでみぃちゃん、後生だから。
目の前の後輩たちの鳴き声が、記憶の中のみぃちゃんと重なった。泣かないでよ、怖いものなんか何もないよ。僕が守るから、僕が。
…………守るって、なにから?
ふと浮かんだ問いの答えは見つからない。呆然とする僕に、孫兵の叫び声が突き刺さった。
「もう嫌です!あれに振り回されるのもこんな思いをするのも!!全部全部あの女のせいなのにッ!!」
あの女、あの女って誰のこと?みぃちゃんのせいで、皆は泣いてるの?じゃあ僕は誰を、なにから守ればいいの?
「……すけ、て」
無意識のうちに唇が動いて、小さな小さなことばを吐き出した。たすけて。たすけて、ほしい。
わからない、何にもわからないよ。たすけて仙蔵、僕はどうしたらいいの?教えてよ、仙蔵。
僕のことばには何も返ってこなかった。僕の声はぽつりと地面に落ちて、そっと消えていってしまった。
僕はみぃちゃんを泣かせたくなくて、ただそれだけだった筈なのに。
みぃちゃんは僕の知らないところで、誰かを傷つけて、泣かせているのかもしれなくて。じゃあ僕はどうすればいいの?何のために何を守ればいいの?
わからないわからない。鳴き声がわんわんと頭の中で響いて、どうしようもない感覚に泣いてしまいそうだった。
「せん、ぞ」
引き攣った喉から漏れる声は、もう音とも言えなかった。僕の頬を、ちいさな冷たさが伝い落ちていった。
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