佐武虎若の落涙
うわぁん、うわぁぁああん。
自分のものとは思えないくらい大きな泣き声が出た。ぼろぼろと流れる涙は止まってくれなくって、喉はひっきりなしに大声を上げる。
僕も三治郎も孫次郎も一平も、みんな同じように泣いている。伊賀崎先輩は僕らがナツコを埋めた土の山の前に花を供えていて、竹谷先輩は難しい顔をして僕たち一年生を抱き寄せた。僕たちの後ろには、生物委員長の柊先輩がじっと立っていた。柊先輩の怪我はまだ完治していなくって、先輩はほとんど体中に包帯や湿布や添え木をくっつけている。
ナツコが天女さまに踏みつけられて死んだのだ。
ナツコと言うのは生物委員会で飼っているセアカゴケグモの雌で、大人しいからと僕たち一年生に世話が任せられていた唯一の毒グモだった。
虫カゴが壊れて逃げ出してしまったのを、天女さまが踏みつけたのだ。僕たちの、目の前で。
危なかったね。毒グモなんでしょう?コレ。
笑って言った天女さまは、ナツコを踏みつけた足をにじりにじりと地面に擦り付けて、まるでナツコをすりつぶすみたいに。
「ナツコの籠の修理を後回しにしていた僕の責任だ。ごめんな、お前たち」
僕と一平の背中を擦りながら、竹谷先輩が唇を噛む。違うのに、ちゃんとナツコから目を離した僕たちの責任なのに。
泣きすぎて、ぐわんぐわんと頭が痛んだ。ごめんなナツコ、僕たちのせいだ、僕たちのせい。ごめんな。
「ッどうして、あんなのを学園に入れたんですか」
伊賀崎先輩が震える声で言った。先輩の首に巻きついたジュンコが、チロチロと心配げに舌を出している。伊賀崎先輩はずっとナツコの墓を見ていたので、後ろにいる僕たちには先輩がどんな顔をしていたのかわからなかったけれど。
ただ、その背中が細かく震えていたのだけはわかった。
「もう嫌です!あれに振り回されるのもこんな思いをするのも!!全部全部あの女のせいなのにッ!!」
「孫兵!!」
ほとんど叫ぶように言った伊賀崎先輩を、竹谷先輩が呼んだ。だって僕らの後ろにいる柊先輩は、天女さまをすごく気にかけているのだ。竹谷先輩は青ざめて、やめろよとそれだけ言った。
柊先輩はじいっと立ったまんま、何も言わない。
ただ、……ただ。
その頬を一滴の水が伝ったのは、僕の見間違いだったのだろうか。
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