三反田数馬の報告




 右腕の尺骨骨折と手根骨粉砕骨折、左腕の上腕骨複雑骨折と肋骨の半分以上が骨折、あと両脚の腓骨骨折、さらには右目の視力低下。以上が、行方不明から帰ってきたときの柊先輩の状態だった。新野先生と善法寺先輩にこっぴどく叱られながら処置された柊先輩は現在医務室で面会謝絶状態。今日保健委員の当番である僕が身の回りのお世話をしているというわけだ。

「いろんな人に言われてると思いますけど、生きてるのが奇跡なんですからね?折れた肋骨が肺に刺さらなかったことに感謝してください!!」
「…うん、ごめんね」
「謝るくらいなら安静にしててください!みんな心配したんですからね!!」

 本当に、柊先輩がいない間は保健委員全員が気が気じゃなかったのだ。失踪した時の当番だった左近なんかは恥も外聞もなく泣きじゃくっていたし。単純な心配の度合いなら、柊先輩の属する生物委員にも並ぶくらいだと思う。いや、こんなの比べるようなことじゃないけれど。
 打撲だらけの柊先輩の体を拭きながら、僕は自分が泣きそうになっているのに気付いた。でもそれも仕方のないことだろうと思う。何せ、上級生数人がかりで罠にかける予定だった大猪をたった一人で仕留めてしまったのだ。それも、状況を見るに一騎打ちで。本当に生きているだけで奇跡だ。

「はい!終わりましたから、先輩はもう痛み止め飲んで寝てください!僕はこれから布巾とか片付けてきますけど、戻ってきて居なくなってたら泣きますから!本気で!!」

 ずいっと三角に畳まれた薬包紙を突き出して言うと、柊先輩はわかったよと柔らかく笑った。トラブルメーカーとして有名な柊先輩は、その実ほんとうにいい人なのだけれど。

「……あ、ねぇ三反田」
「へ?なんですか?」
「みぃちゃんは元気?」

 そっと、まるで縋るように。僕に問いかけた声は平静を装いきれてはいなかった。柔らかな笑顔がこわばって、心配するような雰囲気を明らかに醸し出して。

「……元気、なんじゃないでしょうか」

 彼女は今日も変わらず、上級生の先輩方にちょっかいを掛けているのだと思う。昨日までと、同じように。
 そう、良かった。そう言ってまた微笑むと、柊先輩は薬包紙を開き始めた。


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