彼の幸福




 みぃちゃんを部屋に送り届けて、6年長屋へ戻る。途中で仙蔵が僕の袖を引いてきたので、その指をほどいて僕の手と繋いだ。貝繋ぎをするのは少し恥ずかしいのだけれど、普通に手を繋ぐよりも仙蔵が喜んでくれるから、僕は存外その恥ずかしさが嫌いではない。

「仙蔵、僕とみぃちゃんといるの楽しい?」
「……ああ、楽しいぞ」

仙蔵は少しの間をおいて、ぽつぽつと言葉を置くように言う。何だかそれがすごく素敵なことのように思えて、僕はつい頬を緩めた。
 神様が僕にくれた贖罪の機会は、どうしようもなく僕を幸福にさせた。僕が守れなかったみぃちゃんを、天女として僕のもとに遣わしてくれるなんて、そんな奇跡。その幸せを噛みしめなくてはならないような気がして、僕はついみぃちゃんに構い過ぎてしまう節がある。けれど、みぃちゃんはいつも笑ってくれるし、仙蔵も楽しいと言ってくれるし。だあれも泣くことのない今が、僕はとても好きだ。
 許されるならずっとこのままで。みぃちゃんと仙蔵と3人で生きていけたらいいのに。
 でも、天女になったみぃちゃんはいつか、天に帰らなくてはならない時が来るんじゃないだろうか。それだけが心配だ。みぃちゃんが幸せなら構わないけれど、みぃちゃんが僕が守れないような遠くへ行ってしまったら嫌だなぁ。ぼんやりとそう思う。

「ずっと3人で居れたらいいのにね」

 僕がそういうと、仙蔵が僕の手を握る力を少しだけ強めた。それは肯定、なのだろうか。困ったように眉尻を下げて笑う仙蔵を見て、僕はその薄い唇にそっと口付けた。



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