夢前三治郎の分析




 にこにこ笑う柊先輩に、柊先輩にだけは天女さまへの嫌悪をひた隠す立花先輩。そして柊先輩への嫌悪を隠そうともしない天女さま。
 三者三様の態度をとる先輩方を、僕は食堂の隅から見遣る。

「うわ、仙蔵先輩があーんしてる!やばいどうしよう三ちゃん、見てこれすっげー鳥肌!!」
「兵太夫、立花先輩こっち睨んでるよ」

 ろ組ばりに顔に縦線をくっつけて、兵太夫が僕に粟立った腕を見せてきた。うん、確かに僕もぞっとしたけど。だってあの立花仙蔵先輩があーんだよ?柊先輩以外に対してはくのたまに並ぶ鬼畜っぷりを発揮してる立花先輩があーんだよ?はっきり言って想像の域を越えすぎて気持ち悪い。
 まぐまぐと白飯を噛みながら、僕は柊先輩を観察する。何しろ柊先輩ったら委員会中も天女さまのお話ばっかりなのだ。
今日もみぃちゃんはみぃちゃんでみぃちゃんだった、そういえば仙蔵はやっぱり仙蔵だったけど、みぃちゃんはみぃちゃんだったから今日も3人で楽しく過ごした。
 ここ最近の柊先輩の雑談を要約すると、まぁこんな感じ。柊先輩にはすっきりさっぱり悪意がないから責められないんだけど、天女さまに取り入るという色の課題と委員会の間中続く柊先輩の天女さまトークの板挟みになっている竹谷先輩は大変そうだ。この間なんか天女さまを遠くから見ながら死んだ魚のような目で苦無を握ってた。そしてそれを久々知先輩になだめられてた。どうやらすごく大変らしい。
 しかし実際に柊先輩の話を聞いてみると、柊先輩は大分天女さまを誤解しているように思える。「みぃちゃんは事務のお手伝いを一生懸命やってるんだよ」ってこととか(実際は仕事を全部小松田さんに押し付けてブラブラしてる)、「みぃちゃんはくのたまの子たちにも人気なんだよ」とか(言わせてもらうと実はくのたまに大人気な柊先輩が天女さまに掛かりきりなせいで、くのたま教室では害虫の如く嫌われてる)、「みぃちゃんはとっても料理が得意なんだって」とか(この間魚気持ち悪くて捌けないって自分で言ってた)。誤解っていうかかなり色眼鏡で見ている。それはもう、不自然なくらい。

「ねぇ兵ちゃん、あの人って自分で自分のこと天女って言ってるんだよね?」

 こっそりと兵太夫に耳打ちする。兵太夫は訝しげな顔をしたがすぐに頷いた。

「そうだって。七松先輩がそう言ってたよ」
「へぇ、そうなの」

 僕の父は修験者で、僧ではなく俗人だ。だから僧には禁止されている肉食料理をたくさん食べるし、寧ろ好物なのだ。でも天女さまって、神聖な存在でしょ?

「天女さまって、生臭物食べれるんだね」

 初めて知ったー、とわざと間延びした小声で言ったら、兵太夫が驚いた顔で僕と天女さまを見比べた。ぱくりと立花仙蔵先輩に魚を食べさせられている姿は、かなり悪目立ちしている。本人気付いてないみたいだけど。
兵太夫はしばらく僕と天女さまの間で視線をうろうろさせた後、ぶふぅと盛大に噴き出した。
 つとめて真顔を保っていた僕も耐え切れずに、ついくすくすと笑ってしまった。食堂に居た生徒たちが僕らを変なものでも見たように遠巻きに眺める。目立っちゃってるけど、だって嫌いな人が気付かずにボロ出してる姿って面白いでしょ?

「ちょ、ぶふっ…三ちゃんやばいそれ!」

 失格じゃん!!と腹を抱えて笑う兵太夫を見ながら、そんなに面白いこと言ったかなぁと考える。自分の言葉が予想以上に受けると逆に冷静になるよね。なんでだろ。
 天女さまって蓬莱山とかそういう神気にあふれたところの花の蜜とか果物とかしか食べなくて、下界の物なんか口にしないはずなのに。その天女さまが下界の食べ物で最も俗な肉食料理を食べてるなんて、ねぇ。

「「変なの」」

 僕らの小声は、食堂の喧騒に紛れて消えていく。



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