久々知兵助の戦慄



 そういった顛末があって、俺は煙硝倉で火薬委員会の面々とミーティングを行っていた。議題は当然、色の課題をこなしている間の委員会活動についてだ。

「と、言うわけで。4年生以上はこれから色の課題で忙しくなる。この課題に関しては放課後も取り組まなければならない性質のものなので、下級生には済まないがしばらく我々上級生の委員会活動は疎かになってしまうだろう」

 不安げに俺を見上げる伊助の頭を一撫でして、俺は三郎次に向き直る。

「何週間か、俺とタカ丸さんは委員会に参加出来なくなるかもしれない。もちろん困った場合は声をかけてくれればいくらでも対処するが、その間は頼めるか、三郎次」
「はい、大丈夫です」
「よし、頼むぞ。では解散だ」

 ぞろぞろと煙硝倉を出ていく下級生達を見送って、俺は煙硝倉の鍵を掛ける。錠を落とした瞬間、珍妙な顔をしたタカ丸さんと目があった。

「どうしました、タカ丸さん」
「んー、それが…僕まだろくに色の授業受けてないからさ。具体的に何をしたらいいかわからなくって」
「なんだ、そんなことか。要はただ彼女に気に入られれば良いんですよ。別に特別なことをする必要はありません」
「え、そうなの?」

 呆気にとられたように目を見開くタカ丸さんに笑って、俺は煙硝倉の鍵を懐にしまった。

「ええ。元カリスマ髪結いには簡単なことでしょう?」
「うーん、まあ得意分野かもね。……でも」

 考え込むように黙ったタカ丸さんが、またにっこりと笑う。
「髪結いでも結構、お客は選ぶかな」
「っ、」

 その目の中に底冷えするような何かを認めて、俺は情けなくも固まりそうになる。

「ありがと!それじゃ、授業頑張ろうね!」

 すぐにその瞳を瞼の奥に隠した彼は、ひらひらと手を振って学舎の方に歩いていく。
 昼行灯のような男だと思っていたのに、あれは忍者であったという祖父の血か。俺は軽く目をすがめて、タカ丸さんとは逆方向に歩を進めた。煙硝倉の鍵を、土井先生に返しにいかなくては。



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