七松小平太の発見



 私は、考えることが得手ではない。だからあまり考えて動くことをしないのだ。
 だって考えるなんていうことは出来る奴がやればいいことだ。委員会の予算案はいつだって後輩の滝ちゃんが上げてくれるし、授業で分からないところは同室の長次が教えてくれる。何一つ不自由していない。
 文次郎にはいつもそれでいいのかと諭されるけれど、私はただ楽しく過ごせれば良いだけなのだから、そのために意思を持たぬ刃として働くことに少しの異存もないし。
 だから、夜中に私がひとりで校庭を駆けているときに落ちてきた彼女に、私は首を傾げることになったのだ。
 それはそれは結構な速度で落ちてきた彼女は、受け止めた私を見て、とても嬉しそうに笑った。

「私ね、天女なの」

 そして、空から落ちてきた女は、開口一番そう言ったのだ。よく意味がわからなかったものだから、私はそれにへぇとかふぅんとか、とにかくそういった適当な相槌を返す。横抱きから地面に下ろしたその女は、凄く珍妙な装束を着ている。足とか腕とかが丸出しで、まるで売春婦みたい。それにしては白粉してないけど。
 その女はきょろきょろと周りを見回すと、ほんとにトリップしたんだわ!とほとんど絶叫するみたいに言った。

「ここ、忍術学園でしょ?空から見てたから知ってるのよ、私」
「え?ああそうなの」

 この人、ありがとうって言わないんだなぁ。私は存外、お礼を言われるときのあのこそばゆさが好きであるのに。
 そう思って、彼女を受け止めた両腕をぐるりと回す。うん、痛めてはいないみたいだ。

「でもね、私天に帰る方法がわからないの。だから、帰れるまでここに置いてほしいんだけど…」
「ん?」

 ぎゅ、と。私の手を、彼女が両手で握り込んだ。
 何だかムッとする。だって私、知らない人に触られるのはあまり好きではないのだもの。これが長次や滝ちゃんなら喜んで握り返すのに、……いや、長次が私の手を両手で握ってる図って気持ち悪いな。滝ちゃんだったらまだ大丈夫だ。

「んん、だって私だけじゃ決めらんないよ」

 最前も言ったように、私はあまり考えるのが得手ではないのだ。大体6年生っていっても、そういうことは先生方に聞かなきゃどうにもわかんないし。
 それに、今の時間起きてるのなんか、ギンギンうるさい文次郎くらい。
 しょうがないから長次に見せに行こうかな。長次って眠り浅いからすぐ起きるんだ。

「わかった、じゃあ来て」

 女の人の腕を掴んで、長屋の方に歩き出した。腕細いなぁ。女の人ってみんなこんなかな。忍術学園にいると自然と男としか会わなくなるから、女の子との接点なんかたまに町に出たときに町娘とちょこっと世間話するくらいなのだ。くのたまはアレだ、怖くて近寄れないし。
 とか思ってる間に、私の足は長屋の自分の部屋のところで立ち止まった。廊下に上がろうとしてふと、服の泥を払ってないことに気づく。泥だらけのまま長屋に上がると長次怒るんだよなぁ、怒られるのやだなぁ。

「ねー長次ー」

 結果、私は結局部屋で寝ているであろう長次に声をかけることにした。長次だし、そんなに声が大きくなくても起きるだろう。



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